【”普通入場券”について】

「”鉄道”きっぷ”の種類」の中で”きっぷ”コレクションのジャンルについて述べましたが、中でも硬券の入場券(略して「硬入」)を収集対象とする人は非常に多く、全きっぷマニアの1/3から1/2に及ぶと言われています。このコーナーでは、特に硬入収集のもつ魅力と硬入の様式の変遷、コレクションを行ううえで重要な指標となる硬入発売実績の推移などについて解説していきたいと思います。

1.”硬入”とはなにか?

普通入場券は、改札口内に入る送迎者などを発売対象とした”きっぷ”の1種ですが、厳密には”乗車券類”の範疇に属さず、鉄道営業上はそれほど重要性のない雑収入に対する料金券に過ぎません。通常、最低片道運賃と同額ですが、この券で旅客車両に乗車することは本来認められていない(乗車券ではないので、もし乗車した場合は、入場券との差額ではなく運賃全額が請求される)ため、原則として同一駅内で発売・即回収という寿命の短い特殊なきっぷと言えます。乗車券を所有していない者をプラットホームに入場させることは不正乗車の原因ともなるため、大正期以降は、送迎者など滅多にいないと思われる僻地の小駅にも例外なく設備されるようになり、またデザイン的にも、乗車券類との判別を容易にするためか、白地に駅名部分が大きく印刷され、さらに昔は中央に横一条の朱線を帯して独特の風格があったことから、いつの間にか収集愛好家が増えてきました。赤字ローカル線の一斉廃止を機に、昭和59年頃からはマニアが急増し、近年は全国に数千人から1万人(最盛期)に及ぶ硬入ファンがいると言われています。なお、”普通”入場券に対して、首都圏などでいわゆる”通り抜け”(近道のために改札口内を頻繁に通過する場合)などを対象とした”定期”入場券という券種もありますが、こちらはむしろ”定期乗車券”などに近い様式(軟券)のため、コレクターズアイテムとしてはあまり人気がありません。


2.”硬入”の様式の変遷について

当初はAサイズ(「”硬券”について」参照)でしたが、戦後、需要の多い大きな駅から順に置き換わり、昭和40年頃にはほぼ現行のBサイズに統一されるようになったと考えられます。

10円券までは横中央に朱線が1本入ったデザインで、通称”赤線入場券”と呼ばれていますが、昭和41年頃(20円券)からは全くの無地紋となって、その後現在のように小児断線が入ったのは昭和44年11月改正(30円券)からです。30円券からしばらくは下・左図のような様式が続きましたが、80円券以降(昭和53年7月改正頃から)、門司印刷場の初期と大阪印刷場の券を除いて、現行券のように駅名部分を最上段とするデザインに変わりました。また、民営化後は、駅名部分の左肩にJR各社を識別する□マークが付いたりしましたが、全体的にはほぼ国鉄時代のままです。


各印刷場単位の様式の変遷については、愛好者によって非常に細かい研究がなされていますが(日高三股駅長氏のHP(「秘境日高三股へようこそ!」)・「鉄道入場券図鑑」(日本交通趣味協会・1980) など)、あまりに複雑なので詳細は省略します。


3.”硬入”発売実績の変遷について

昭和20〜30年代鉄道の全盛期には、国鉄の駅の大部分(無人駅を含めた総駅数の95%以上)で駅員を配置して出改札を行いましたが、自動車の普及や道路の整備に伴う鉄道の衰退から、合理化の先駆けとして駅の無人化が推し進められた結果、近年では都市圏と沿線の主要駅を除いてほとんど乗車券類の購入ができなくなってしまいました。この傾向は人口の希薄な僻地を通る赤字路線を多く抱える北海道や九州で顕著に見られ、北海道では昔600以上もあった有人駅が今では100駅そこそこにまで減少し、ほとんどの駅で入場券が姿を消しています。さらに最近は、自動券売機の普及と電算機・印刷技術の発達が拍車をかけ、”硬券”自体が消滅の一途をたどっており、JR線では近い将来、駅の出札口で硬入を買い求めることはできなくなるとみられています。

参考:《北海道における硬入発売駅数の推移》(日本交通趣味協会発行「国鉄入場券チェックリスト」より算出)
  
料金改正 額面 硬入発売駅数   減少数
  26.11.-1. 10円 599
  41.-3.-5. 20円 583 ▼16
  44.-5.10. 30円 577 ▼6
  51.11.16. 60円 485 92
  53.-7.-8. 80円 459 ▼26
  54.-5.20. 100円 433 ▼26
  56.-4.20. 110円 411 ▼22
  57.-4.20. 120円 390 ▼21
  59.-4.20. 130円 313 77
  60.-4.20. 140円 246 67
  民営化(62.-4.-1.) 140円 126 120

北海道では、近年(昭和58年以降)の大規模な路線廃止・無人化の他、昭和45年から49年にかけても中規模の集中合理化が行われ、特にこの時期以前に廃止・無人化されたものは3万円を超す高いプレミア価格が付いています。また、現在JR北海道では硬入マニアと鉄道ファンを対象に、出札業務を行う有人駅のほぼすべてで硬券入場券の発売を行っていますが、既に委託駅の一部を除いて大部分の硬券が廃止となっているため、発売中止は時間の問題と思われます。他のJR5社でも、既に廃止もしくは現在の在庫が売り切れ次第廃止の方向で、最近は愛好家による痕跡的な発売情報もほとんど目にしなくなりました。