(特別エッセイ)【切符蒐集を考える】


 世の中にはどうみても妙なものを集めて喜んでいる人が少なくないが、我々"切符マニア"もどちらかといえばそうした部類に入るかもしれない。実際、ちょっと肩身の狭い思いをした人は多いはずで、曰く「そんな紙屑集めてどうするの?」とか「使用済みの切符なんて持っていてもしようがないでしょ?」とか筆者もよく言われるが、全くもって大きなお世話である。どんなコレクションでも一旦始めてみればそれなりに奥が深いもので、100、200と集まり出せばもはや自分でも歯止めが効かなくなり、気が付いてみれば大枚はたいて高価な「レア物」に手を出してしまうパターンが多い。カミさんの顔色を窺い、一時は少し後悔しても、1週間も経てばもう次のターゲットを物色といったあんばいで、多少は値上がりを期待する向きもあるだろうが、結局は"自己満足"の世界と言えるであろう。とりわけ"切符"(鉄道乗車券類)はバリエーションも豊富で、例えば「入場券」1つに絞っても非常に奥が深く、研究するほどに興味が尽きないため、あっという間に数千枚、数万枚と集めてしまう人が少なくないようだ。

 さて、切符を集めるには大雑把に言って、(1)出札窓口などで直接講入する(使用せずにそのままコレクション)、(2)出札窓口などで直接講入した券を使用後、何らかの方法で手元に残す、(3)専門業者を通じて手に入れる、(4)オークションを利用する、などの方法があるが、実際にはそれぞれに"コツ"やら"運"やらがあってなかなか思ったようにはいかないものだ。筆者自身も20数年の蒐集歴の間に、"思いがけずラッキーな"経験や"苦く切ない"思い出がいっぱいある。同じような経験をされた方は結構多いのではなかろうか?


(1) 出札窓口などで直接講入する

 購入した券を使用せずにそのまま家に持って帰る方法で、鉄道会社側も認める最も正当な手段と言えよう。今でこそ「入場券」の講入はポピュラーになって、「日付はどうしますか?」とか「パンチは入れますか?」とか、出札側でも色々と便宜を図ってくれるが、そもそもキセルに利用される可能性もあるため、昭和20〜30年代に蒐集を始められた先輩諸氏はさぞかし大変だったろうと思う。たまたま乱暴な出札氏に当たってしまうと、あまりコレクションには相応しくないコンディションでダッチングされてしまうことがあり、遠方からわざわざ講入のために立ち寄った場合など、こちらも気恥ずかしくてなかなか言い出せず、後味が悪い思いをすることも多い。

<筑肥線加布里駅にて>

 「すみません、入場券を1枚ください。」
 「(ぶっきらぼうに)入場券?..............(ガチャッ)..............はい。(と同時に差し出されるが、)」
 「(逆日付)......................。」
 「(やむを得ず)すみません、もう1枚お願いします。」
 「(ちょっと面倒くさそうに)もう1枚?......................(ガチャッ)。」
 「(またもや逆日付!).........................................................................................。」

.. ・・・・・恐らく普段から日付を入れる向きなど気にしない人なのだろうが、こういう出札氏には事情を話してただただお願いするしかなく、こちら側としてもはなはだ心苦しいものだ。(結局、コレクションにする旨を話して3枚目を発行してもらった。思ったより親切な方で、前の2枚を回収して再発行してくれるとまで言ってくれたが、丁重に辞退。)
 天北線の某駅に入場券の郵送を依頼した際も、こちらの意図を知ってか知らずか、やはり2回も連続で"折れ"の入った券が送られてきてがっかりしたこともあった。日付印字器の不調ということもあるかもしれないが、マニアの心理に疎い出札氏には本当に泣かされる。 


◆ 切符マニア失格と言われるかもしれないが、筆者の場合、なんとなく"気後れ"から、できることならばこちらがマニアであることを悟られないように切符を講入できないか、といつも考えてしまう。「常備往復乗車券」がまだ硬券の頃、往片と復片の切り離し部分には弱いミシン目が入っていたが、駅によっては切断しやすいよう、この部分にさらにハサミで切れ込みを入れる場合があり、蒐集目的で窓口講入するときはいつもヒヤヒヤものだった。

<日豊本線臼杵駅にて>

 「(さも一般客を装って)すみません、津久見まで往復でください。」
 「津久見往復ですね。はい。」
  (券に日付印字後、おもむろにハサミを取り出す駅員氏。)
 「(冷や汗.....)あっ.....と。ハサミは入れないでもらえますか?」
 「えっ(???).......................................................................................................。」

.. ・・・・・こちらがマニアとわかり、心なしか駅員氏の態度が硬くなったときは本当に後味が悪いものだ。


◇ まだ硬券が健在の頃、初めての駅に下車した際は、客と出札職員がいないのを見計らって出札窓口を"横"からのぞき込み、乗車券類の設備状況を観察するのが筆者の楽しみだった。乗車券ボックスに整然と並べられたたくさんの硬券を見つけると、いつも心躍るようなわくわくした気持ちになるのは私だけではないはずだ。
  「あ〜あるある。欲しいのがゴロゴロしてる。常備券が多いなあ。ほう、今時、D型の常備指定席特急券が4種もある。げっ....常備急行券・グリーン券まである。」
欲しい券、珍しい券ほど高額なケースが多いので、この方法で入手するときは金銭的につらい場合が多い。しかし、硬券は一種の"出会い物"で、この次来たときに必ず同じ券の口座が維持されている保証はなく、筆者の場合も悔しい思いをしたことが1度や2度ではなかったため、無理をしてでも極力そのときに講入することにしている。中には、「着駅別」「料金別」に全ての券を買われる"強者マニア"もおられたようだが、"印刷発行機も自動券売機もない中程度の急行停車駅"などはすべてを多種の硬券で処理するため、実際にはなかなかそういうわけにはいかない場合も多い。

<久大本線天ヶ瀬駅にて>
 JR九州では平成7年6月一杯で硬券が廃止になるということで、筆者も久大本線天ヶ瀬駅へ"硬券のまとめ買い"に行ったときのこと。あせりもあってろくに確認もしないまま、うっかり「全ての券を1枚ずつください。」と言ってしまい、実際に乗車券ボックスの左上から順番に次々とダッチングされたときは、本当に冷や汗が出た。こういう場合は素直に事情を話して許可をもらい、事前に券の設備状況を確認させてもらったほうがよい。指定券類も蒐集目的であることを丁重に説明すれば、意外と「無記入」のまま売ってもらえるものだ。




◆ 駅別の"乗車券類の設備状況"は「交通趣味」などの愛好者情報誌によく掲載されていたため、筆者は結構重宝した。何十という駅を廻っても、行き当たりばったりで"珍券"に出くわす可能性は低いため、あらかじめ情報を持っているのといないのとでは、時間的効率や金銭面で大きな差となる。それでも、実際に当駅へ出向いてみると、タッチの差で口座が廃止されていたり、いつの間にか軟券化されていて虚しい思いをすることもしばしばであった。
 筆者が硬券集めに熱中した頃(昭和50年代後半)は、ようやく九州の主要駅に100km対応の自動券売機が導入され始めた時期で、かなり乗降客の多い都市近郊駅でも50km対応の自動券売機すらなく、乗車券や入場券はもちろん多くの券種でまだ硬券が健在だった。筆者の場合は、時代錯誤的?な「〇〇から〇〇ゆき」(一般式)の乗車券がまだ身近に存在することに対する"驚き"がそもそも(切符蒐集)のきっかけで、当時九州では、50kmまでの近距離片道乗車券は「金額式」(B型赤地紋)だったが、中距離の50〜100kmは概ね「一般式」(B型赤地紋)で印刷されており、さらには極稀に「地図式」(A型赤地紋。当時首都圏ではポピュラーだった)なども痕跡的に残っていて、情報誌に珍券情報が載るたびに出掛けて行ったことを思い出す。しかし、硬券が全廃された今となっては、蒐集品を眺めるたびに「あれも買っておけばよかった」とか「これを集めておけばよかった」とか後悔ばかりが募って、もう少し早く蒐集を始めていたら、もう少し早く生まれていたらと、本当に残念でならない。もちろん、現在でも全く同じものを"市場"で探して手に入れることは可能だが、実際に現地に行き、存在をこの目で確かめて、珍券を"額面で"講入する喜びは何物にも代え難いような気がする。

<鹿児島本線東郷駅の地図式乗車券>

 当時、九州(門司印刷場)では中距離(50〜100km)の普通片道乗車券(硬券)はほとんど「一般式」に移行していたが、なぜか東郷(鹿児島本線)・西小倉(日豊本線)・南宮崎(日豊本線)の3駅には「地図式」が痕跡的に残っていた。いずれも、都市部でそこそこの需要があるのに100km対応の券売機がなく、複数路線の交差する地域にあって「一般式硬券」で揃えると口座数が多くなってしまうという特殊な背景があったらしい。しかし、当時は「地図式」の活字を組むのが結構面倒だったためか、運賃改正の度に局から口座廃止を勧められたという。西小倉が昭和61年3月頃まで、東郷はJR民営化も生き残ったが、いずれも新型自動券売機の導入により全廃された。


(2) 出札窓口などで直接購入した券を使用後、何らかの方法で手元に残す

 購入して乗車に使用した券を下車時に回収されないように工夫する方法で、違法ではないにしてもいろいろと制約や"運"があり、本当に欲しい券を狙って実行するのは意外と難しい。

@ 定期券で出る
 通勤・通学などで自宅の最寄り駅を利用している場合は、帰路にこの方法が使える。(もちろん切符は正しく買う!)ただ、「使用済みの切符」は鉄道会社に引き渡すのが原則なので、ちょっと後ろめたい気もするが、常習者でない限り呼び止められることはないはずだ。このやり方は、鉄道会社が最も警戒する「キセル」の常套手段でもあるため、トラブルが嫌な人は「さも旅行帰りで大荷物を抱えている」場合などはやめたほうがいいかもしれない。

A 少し先の駅まで購入して途中下車する
 「発売日共◯日間有効」と印刷されている乗車券は何回でも途中下車することが可能なので、目的地より最低1駅分先まで購入して、下車時に「途中下車」と申告すれば合法的に券が手元に残る。但し、1駅先が"小さな無人駅"だったりすると、"狙いの券"ではなく、準常備券や補充券(軟券)が出てくる場合もあるので要注意(筆者も経験あり)。また、途中下車に際しては原則として駅名が入った「途中下車印」(右図)を捺す規則になっているため、結構省略される場合も多いが、最後の最後でべったりとインクが滲んだコンディションになることもあるので、覚悟しておいた方がいい。

B 料金券を渡さないでおく
 列車の発着便数の多い大きな駅で下車する場合、乗車券は渡さないわけにはいかなくても、特急・急行券や指定券類(寝台券・指定席券・グリーン券など)は渡さなくても改札口を出られる。但し、小さな急行停車駅や列車ごとに改札を行う駅ではちょっと難しいので、どうしても欲しい場合は「さらに普通列車に乗り継いで1つ先の駅で降りる」などの工夫が要る。(料金券については「記念にしたいから是非に」と低頭でお願いすれば、堂々と手に入る場合もある...らしい。)

C 無人駅で下車する
 列車編成の長い路線の無人駅では実際上、車掌が1人で使用済み乗車券類をすべて回収することが困難なため、改札口に集札用の小さいボックスを置いている場合が多い。必ずうまくいくとは限らないが、出改札職員を配置している駅でも夜間は無人となり、このような方式を採っているところが少なくないので、こっそりと改札口を出ることが可能だ。但し、そういう日に限って車掌がホームに降り、念入りに集札する場合もあるので、ある程度は(失敗する)覚悟も必要だろう。

D 無効印を捺してもらう
 経営が傾いてキセルが問題になって以来、原則として国鉄では事情に依らず「使用済み切符」は回収するという方針を採っており、何度も通達が出されて、例え「無効印」を捺しても認められないという厳しい時代が長かった。但し、これはあくまで原則であって、地方の小駅などでは「本当はダメなんだけど」と言いながら、無効印さえ捺さない理解のある駅員氏も結構いたようだ。ただ、新幹線関係はキセルによる被害が大きかったためか、筆者などは博多駅新幹線精算窓口で恐る恐るお願いしたところ、いろいろと注意されて署名までさせられた挙げ句、券の表面にドカンと無効印(右図)を捺されてちょっと苦々しい思いをした経験がある。かと思えば、民営化後はこちらがマニアとわかると、頼みもしないのに奥の引き出しから集札した使用済みの券を取り出し、「記念にどうぞ」と無償でプレゼントしてくれる親切な駅もあったりして、本当に時代の流れを感じる。

 当時の国鉄が非常に"売り上げ台帳の管理"に厳しかったという点について"FUJINO"様からご教示を受けましたのでご紹介致します。
田舎の小駅で入場券が発売されて実使用された場合は"回収が鉄則"であって、未使用券を持ち帰るのは黙認できたとしても、(無効印を捺して引き渡す場合には)『X月X日発売の券番XXXX入場券は回収時、領収書代用として確認の上、無効印押印後、引き渡した』といった事由を台帳に記載し、担当者がハンコを押す決まり(不正があったら担当者の責任)で、未使用券の記念持ち帰りの場合も販売台帳に事由を記載していたそうです。乗車券は尚更管理が厳しかったと聞きました。そんな時代背景でもあるのと、乗車券・料金券管理の煩雑さから、田舎の小駅だと、便所使用とか送迎や新聞購入で構内のキオスクに行く程度なら、入場券そのものを発売せずに"顔パス"で入場させていたのが普通だった、という話を国鉄OBから聞いたことがあります。 これでは、小さな駅が「積極的に低料金の"入場券"を売る気になれない」のも頷けます.....。

◆"FUJINO"様、貴重な情報を本当にありがとうございました。


(3) 専門業者を通じて手に入れる

 知らない方はちょっと意外に思われるかもしれないが、いわゆる「金券ショップ」とは別に「使用済みの切符」を"切手"や"古銭"などと同じホビーの対象として専門に販売する業者が存在するため、既に廃止されたり無人化された駅発行の入場券や乗車券類は、こういった店を利用する方法がある。運がよければ、オークションを利用するより安値でそこそこの珍券を手に入れることができるため、筆者は東京などに出掛ける機会があればしばしば利用していた。通販も可能なので、券の状態をそれほど気にしない(現物を見ずに買ってもよい)ならば、僻地在住の方でも気軽に購入・問い合わせも可能だ。


(4) オークションを利用する

 以前は愛好者団体の機関誌や専門の入札誌などが中心だったが、近年はインターネットの普及によって、いわゆる"ネットオークション"が"切符"の世界でも盛んに行われるようになってきた。従来の印刷物を使った入札誌に比べると、事実上出品物に制限がなくなり(大量だが玉石混合)、出品者の意図に応じて色々な画像や長い説明等を加えることもできるようになったため、入札に参加する側も出品物の"値踏み"をしやすくなって、品物が届いてから失敗だったと後悔するケースも少なくなったようだ。昔は、誌面の都合などで出品物の写真が大抵1枚しかなく(しかも小さくて白黒だったりして)、備考欄も「少日焼、裏に小筋」程度の簡単な記述しか掲載できなかったので、どの程度の「少日焼」なのか、どの程度の「小筋(スジ)」なのか、具体的に判断できず、筆者も苦い経験をしたことが少なくなかった。「プレミアの付く条件」にも書いたが、"切符"の世界では微妙な"キズ"でも券の価値が大きく上下するため、見るからに高額な券の入札には注意が必要だ。しかし、高価な珍券ほどオークションでしか手に入らないことも多く、どうしても欲しいならばある程度「賭け」と思って納得するしかないと思われる。

 ただ、残念なことに"切符"の世界でも、最近は貴重な券を模した「偽物」がかなり出回るようになったらしく、筆者も蒐集仲間に教えられて某HPを覗いたところ、印刷場特有の活字の癖や細かいレイアウト幅までをそっくり真似た、"観賞用模造品"というよりは「詐欺を狙った贋造品」に近いものまで存在することを知った。印刷・パソコン技術の向上により"切符"の精密な模造が比較的簡単になってきているのは間違いなく、このようなものが「本物」としてオークションに掛けられた場合、実際に手に取って真券と比較できるならばともかく、画像だけで真贋を判断するのは少し難しいのではないかと思われる。しかも、"切符"の場合は同じ模造品を大量に作製することも容易なので、あまりに精巧なものが本物に混じって取引きされるようになると、需給のバランスが崩れて真券の価値まで下げることにならないか、とちょっと気掛かりだ。

<湧網線北見共立駅の30円券>

昭和47年の無人化駅。特に但し書きがなかったので、気合いを入れて26000円で落札したが、裏面に明らかな「小筋(中央部)」が入っていてがっかり。微妙な「小筋」は出品者も気付かない場合があり、"値踏み"も難しく、落札後にトラブルの原因となるケースも多い。

<日豊本線暘谷駅の140円券>

余談になるが、筆者の国鉄JR硬入コレクション(九州)の中で、1枚だけ他の券([西]小倉・[西]博多を除く)と明らかに活字の書体が微妙に異なるものがある(右図)。門司印刷場の券を見慣れたコレクターならば、ひと目で「フェイク」と思われるだろうが、筆者が直接暘谷駅に郵頼したものなので、間違いなく本物だ。硬券が廃止になる直前のものなので、「門司乗車券管理センターの事情(例えば「暘」の活字がない?とか)により、特別に外注したもの」と推測されるが、真相は不明。


★ "切符"の保管法について

 古い貴重な券をオークションなどで拝見した際にしばしば「あ〜あ。ちょっと残念だなあ」と思うのは、券に著しい日焼けや指紋の脂染みなどの人為的汚れ、写真のコーナー貼跡などが目立って、もう少し気を配って保存していれば、この数倍は落札価が違っていただろうに、と感じるときである。出品者には気の毒だが、このような"キズ"のある券は希少なものでも安く手に入ることが多いため、"キズ"の程度が自分の許容範囲内であれば、入手する側としては思わぬ"掘り出し物"となる。

 右上の"日南線子供の国駅20円券(昭和46年無人化)"は「小筋(右部)」が原因で1500円、下の"根室拓殖鉄道硬乗(昭和34年廃止)"は「写真用の薄いコーナー跡(下部両側)」のために2500円で手に入れたものだ。いずれも「パッと見」はそれ程悪くはないが、状態さえ良好ならば、少なくともこの数倍の価値はあったと思われる。

 筆者の場合、蒐集用の券を触れる場合は、極力券面ではなく、爪でコーナーを掴むかピンセットを用いるようにしている。"手垢"(指の脂・左図)は結構厄介で、入手時にはそれほど目立たなくても経年的に茶色く変色してくるパターンが多く、筆者のように神経質に扱っていても、出札氏は常に手袋をしてくれるわけではないので、特に夏場(7〜9月)に発行された券はある程度覚悟しておいたほうがいいかもしれない。石鹸水やベンジン系の有機溶媒で清拭実験をやってみたこともあるが、古い券では紙面が荒れる割に効果は薄い(却ってムラになる)ため、貴重な券の場合は色々小細工せずにあきらめたほうが無難だ。

 最終的に券を保管する際は、幸い"蒐集切符専用"のストックブックが市販されている(バインダー方式でAB券用、D券用など数種類ある)ので、これを利用するのが間違いない。(切手用のストックブックでもある程度は代用できるが、券自体にかなりの厚みがあるため、量が増えてくると思った以上にかさばって変形の原因となる。)筆者の場合は、特に貴重な券のみ、さらに専用のセロハン袋(これもたぶん通販で手に入る)で包んでから収納することにしている。きちんとファイリングせず、引き出しなどにむき出しで入れておくと、一応は遮光されていても、ちょこちょこ開ける度に「日焼け」は避けられず、10年も経つとストックブックに保管したものとの差は歴然としてくる。((1)の加布里駅の硬入3枚を比較してほしい。)また、夏場、押し入れの奥など高温多湿の場所に長期間保管しておくことも要注意。


 その後、"古部 遥"様のブログ「厚紙散歩」を拝見した際、変色した切符の"キッチンハイターを使った漂白法"が結構有効であることを知りました。(「硬券のシミ取りを試す その1」「硬券のシミ取りを試す その2」など) キッチンハイターはメーカー公表の成分表によると、"漂白剤"(次亜塩素酸ナトリウム)のほか"界面活性剤"(アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム)とアルカリ剤(水酸化ナトリウム)を含有しており、ちょっと考えると強力過ぎて副作用が心配なのですが、氏の実験データ(画像)を拝見すると、切符の変色部分が意外なほどきれいに改善されており、今後研究の価値がある手法だと思いました。詳しい方法等は是非氏のブログをご覧頂きたいと思いますが、やはり印刷文字が薄くなったり滲んでしまうケースもあるため、綿棒ではなく"小筆"を使って慎重に行ったほうがよいという点と、(まだ実験段階なので)「貴重な券では試さないでほしい(あくまで自己責任で)」というアドバイスを頂きました。

◆"古部 遥"様、今回は色々とお世話になり、本当にありがとうございました。


 その後、"FUJINO"様から、「硬券が一面または斑点・斑状に変色するのは、用紙に含まれている偽造防止用の"滑石"(改札鋏を鈍らせる原因にもなる)のバインダー剤の変質によるものである」こと、また「塩基系なので、ハイターなどの塩素系剤で中和は可能だが、これは"漂白"というより"化学反応による還元"である」という専門的なご指摘を受けました。

◆"FUJINO"様、度々お世話になり、本当に恐縮です。


 ・・・・・トーマス・エドモンソンが厚紙のA型券を発明してから170年足らず、残念ながら「硬券」の存在は風前の灯火に違いない。せっかく苦労して集めた切符なのだから、後世に伝えるべき貴重な鉄道資料という意味でも、末永く大切に保存しておきたいものだ。とは言っても、自分の死後、その価値を理解できないカミさんや子供に捨てられてしまうのは仕方のないことではあるが.....。