(特別企画)【日付印字器(ダッチングマシン)のはなし】


1."日付印字器(ダッチングマシン)"とは?

 "ダッチングマシン(Dating Machine)"とは、その名の通り「硬券の切符(乗車券類)に発行(発売)日付を印字する器械」のことで、日本語では通常"日付印字器"と訳されている。硬券左端の所定の位置に正確に素早く印字できることから、乗車券類に硬券が多用された昭和50年代までは、ほとんどすべての鉄道駅(国鉄・民鉄)及びその他一部の交通機関(バス・モノレール・船舶など)の出札窓口に、必ずといってよいほど常備されていた。少なくとも現存するモデルの基本構造は戦前に日本で考案されたものらしく、文献によると"菅沼整一"(明27〜昭33・昭和31年"紫綬褒章")という方が発明し、特許を得たとされている。その後、"菅沼タイプライター株式会社"と"天虎工業株式会社"の2大メーカーを中心に製造が続けられてきたが、近年の"硬券廃止"の流れを受けて、最後まで残った天虎製が平成5年頃(?)に生産を中止し、現在は国内でダッチングマシンを作っているメーカーは1社もない。また、今後製造を開始するメーカーが現れることも期待薄な状況だ。日本と同様に"硬券"を使用してきた韓国や台湾などでは、今でもダッチングマシンとよく似た器械(中国?の"新星機電"製など)が使われているようではあるが、当然「元号年」印字方式ではないため、これを国内で流用することも難しい *1)と思われる。最近では、メーカーによる保守整備(修理)すら行われていない模様なので、故障すればそのまま廃棄する他なく *2)、現在でも硬券を設備している極一部の駅でさえ、軟券用の"日付スタンプ"で代用している所が少なくない。(今年廃止になった"島原鉄道南線"の深江・有家・北有馬の各駅など)さらに、昨年(平成19年)2月には、大きな"牙城"の1つだった"京急電鉄"が全駅でダッチングマシンを廃止し、マニアに衝撃を与えた。なお、余談だが、英語の"dating"(「日付を入れる」)の発音はどう考えても"デイティング"なので、"ダッチング"は日本の鉄道界オリジナルの慣用語とみられる。

*1 予想に反して台湾では一部の駅で、今でも日本製の古いダッチングマシンの"年"の活字部分を改造して使っているという。しかも、台湾の"民国年号"は2011年に3桁(100年)に達したため、日本元号の2桁スペースに無理矢理3文字分の活字を詰め込んでいる模様。
*2 現存しているほとんどのダッチングマシンには発行"年"の十の位に「2」の活字がないため、最近は古いダッチングマシンの改造修理を請け負う業者が現れている。地方私鉄の一部の駅では、改造して平成20年代の印字に対応した昭和40年代前半製造の"菅沼式"などが今でも現役とのこと。

 


2.ダッチングマシンの構造

 前述のように、現在、国内ではダッチングマシンの新品はほとんど手に入らないため、主に鉄道会社の放出品がオークションなどを通じて鉄道マニアの間を行ったり来たりしているのが現状だ。(「デッドストック品」は極稀に見掛けるが非常に高価。) 但し、最も新しいものでも製造から15年を経ており、数があってオークションでよく見かける昭和40〜55年頃製造のものに至っては"30〜40年という年代物"と化しているので、外観の錆びや塗装剥げはもちろんのこと、肝心の"活字"に磨耗や破損があったり、インクの固着によって日付変更が不可能になっているものなど、完璧に動作するものはあまり多くないとみられる。現存するものは、"菅沼式"(昭和40年頃までのほとんど)と"天虎式"(昭和41年以降の大半)に大別されるが、両者の基本構造はほとんど同じといっても過言ではない。

(1) 菅沼式乗車券日附器(菅沼式)

 "菅沼タイプライター"は菅沼整一氏が昭和19年に創立した会社で、もともとは画期的な"和文タイプライター"の生産で有名だったが、ダッチングマシンでも優れた機構を発明し、昭和30年代はほぼ100%のシェアを獲得したという。(当初は"菅沼日附器(株)"という別会社?昭和15年製作の「乗車券」という短編映画を見ると、既にこれとほぼ同じデザインの菅沼式が使われている。)その後、いつ頃まで"菅沼式乗車券日附器"を生産したかははっきりしない(筆者が確認できた最新のものは昭和39年11月製)が、昭和41年以降に天虎工業が製造を開始してから急速にシェアを失ったのは間違いなく、あるいはこのときに製造権を天虎工業に売却したとも考えられる。主力製品の和文タイプライターは、誰にでも容易に使いこなせる代物ではなかったため、"日本語ワードプロセッサ"の登場によって急激に経営状況が悪化したことは想像に難くなく、晩年には複数の会社に分割したようだが、詳細はよくわからない。現在でもそのいくつか("株式会社スガヌマ"など)は営業を続けているが、商品の主力は情報機器の総合販売・コンサルティング業務などに移行している模様。
 なお、オークションなどで見掛ける"菅沼式乗車券日附器"の多くは「MODEL B」となっているが、他に「MODEL A」や「MODEL C」などがあったのかどうかは定かではない。


[構成部品]

@ 活字ホルダー
A 活字ホルダー牽引バネ
B 活字
C インクパッド
D 「ヨ」活字挿入レバー
E 印字位置調整金具
F 乗車券押さえロール
G ロール間隙調整ネジ

H ピリオド「.」活字(4ヶ所・左2ヶ所は固定)
I 「ヨ」活字

J 活字固定・変更用爪(1リングに10ヶ所)
K 活字固定フック(6ヶ所)
L 活字固定フック調整金具
M クッションゴム(左右2ヶ所)

幅: 11cm
高さ: 17.5cm
奥行: 9.5cm
重量: 2.2kg


※ 上記は仮称です。(正式名はわかりません。)
 ご存知の方は教えて下さい。(解決しました。下記参照)

※ JにKを引っ掛け、さらにKをLが押さえつけて
 活字をロックする構造。また、Jは日付変更用レンチ
 の"爪掛け"にも兼用。

※ Iの上下にある右2ヶ所のHピリオド「.」活字も
 Dと連動しており、「ヨ」活字の挿入如何にかかわらず
 発行"日"右下の「.」が印字できるよう工夫されている。

 その後、初沢様からメールを頂き、現在「特許庁の電子検索」から特許や実用新案の内容(明細書及び図面)を具体的に検索できることがわかりました。幸い「菅沼式乗車券日附器」には特許及び実用新案の登録番号等が刻印されているため、その具体的な構造や機構の他、発明者・菅沼整一氏に拠る部品名称を知ることもできます。(下記:基本特許[大正15年12月22日]書類上=黒字 / 原型の実用新案[昭和2年9月20日]書類上=青字 / "特殊記号装置"「ヨ」の特許[昭和27年9月30日]書類上=緑字。但し、旧字体は新字体に統一。なぜか同じ部品でも書類により微妙に名称が異なっており、会社部内では「あまり呼称についてのこだわりはなかった」ことが窺がわれます。)

@ 揺動槓桿(ヨウドウコウカン)・活字盤(?)揺動子(ヨウドウシ)
B 活字円版・日附活字円盤
C 給肉部・ラシャ
D 「特殊記号装置」カム
E 制限爪・切符受
F 扇形台・押圧台
G 調節螺桿(チョウセツラカン)・螺子(ラシ)
K 止鉤片
L 弾片・熊手状弾性板
N 機台
O 直立臂(チョクリツヒ)・ベルクランク型インキ皿
P 制限板・切符通過案内器/正面案内器
 (奥にある垂直板のこと)
Q 切符進行案内
R く字型曲槓桿・機枠(?)


筆者はEを単に印字開始位置を調整するための金具と考えました(2次的にはそういう意味もあるかもしれません)が、そもそもこの部品がなければ切符は印字されずにそのまま"すり抜けてしまう"ため、「B日附活字円盤の回転を誘導する重要部品」という位置付けが正しいようです。また、"ベルクランク"とは本来、教会などの塔の上の鐘を下にいながら鳴らせるようにしたL字型の装置のことで、Oの金具もL字形の"肘"の部分が回転軸になっていて、印字終了後Aバネの牽引力で戻ってきたB日附活字円盤の惰性運動と梃子(てこ)の作用により「自動的に活字がインクを染み込ませたCラシャに圧着して、次のダッチングに備える」仕組みになっています。その他、書類には弾機・螺桿(螺子)といった単語もよく出てきますが、単に前者は"バネ"、後者は"ネジ"の古い日本語表記と考えてよいと思われます。なお、当然のことながら、特許や実用新案の明細書には機構(動作の仕組み)の説明も詳しく書いてありますが、ただでさえ複雑なうえに古い文体と相まって、筆者には極めて解読困難でした。さらに興味のある方はこちらから検索・閲覧をお奨めします。(特許070229/197801・実新112381/399048)

※ また、"菅沼式"特有の「断面三角状」の活字形態は昭和27年になって"実用新案"登録されたもので、それによると、1) B"日附活字円盤"はすべてが"一塊鋳造"ではなく、活字主体(0.5〜1mm厚)は活字円盤に鑞着(ろうちゃく)またはハンダ付けされているらしいこと、2) 形状を断面三角形にすることで、切符紙面に容易に食い込み、印字面を鮮明かつ汚損を少なくすると共に「切符表面を削るなどして再使用する」不正を防止する効果があること、などがわかります。


[昭和35年製・菅沼式乗車券日附器の活字配置]

発行"年"の十の位: 「3・3・4・X・X・X・X・X・X・X」
発行"年"の一の位: 「1・2・3・4・5・6・7・8・9・0」
発行"月"の十の位: 「-・1・1・X・X・X・X・X・X・X」
発行"月"の一の位: 「1・2・3・4・5・6・7・8・9・0」
発行"日"の十の位: 「-・1・2・3・1・2・X・X・X・X」
発行"日"の一の位: 「1・2・3・4・5・6・7・8・9・0」

※ 活字リングにおける出現順。但し、「X」は活字がないことを表す。


(2) 天虎工業製乗車券日付器(天虎式)

 製品本体には器械の正式名称が表示されていないようなので、上記は仮称。(ご存知の方がいたら教えて下さい。)"天虎工業"の創立は昭和41年で、現在も東京都世田谷区で盛業。ダッチングマシンの分野では、開業当初から急激にシェアを伸ばしたらしく、特に"鉄道ブーム"(昭和58年〜)期以降に発券された硬券切符のほとんどは、このダッチングマシンで日付印字されたものとみて間違いない。但し、残念なことにダッチングマシンの製造は平成に入って間もなく中止されたらしく、現在は海外にも進出してオーディオ製品や電子機器等の設計・製造などが商いの主力になっている模様。
 なお、オークションなどで見掛ける"天虎工業製乗車券日付器"の多くは「型式 TA 1」となっているが、他にどのようなモデルがあったのかはよくわからない。


[構成部品]

@ 活字ホルダー
A 活字ホルダー牽引バネ
B 活字
C インクパッド
E 印字位置調整金具
F 乗車券押さえロール
G ロール間隙調整ネジ

H ピリオド「.」活字(3ヶ所固定)

J 活字固定・変更用爪(1リングに10ヶ所)
K 活字固定フック(6ヶ所)
L 活字固定フック調整金具
M クッションゴム(左右2ヶ所)

幅: 10.5cm
高さ: 17cm
奥行: 9cm
重量: 2.2kg


※ 上記は仮称です。(正式名はわかりません。)
 ご存知の方は教えて下さい。
 なお、"菅沼式"にもあるNのネジ穴は、潤滑油の
 「注油口?」と想像される。

※ Fが製造の容易な(?)「リング形」に改良されて
 いる他は"菅沼式"とほとんど同じ構造と言える。
 但し、肝心の活字部分の"肉"がかなり薄い印象で、
 しかも断面が「基底部の厚い三角形」(菅沼式)では
 なく「幅の狭い脆弱な四角形」となっているため、
 "菅沼式"よりも破損や磨耗に弱いのは間違いない。
 (下記に続く)

 前述の通り、菅沼整一氏は昭和25年8月に「乗車券日附器用活字」の実用新案を出願(公告は昭和27年9月)しており、"天虎式"が堅牢な「断面三角状」の活字を採用しなかった背景には、活字形態の使用権に関する問題があった(あるいはトラブルを恐れて敢えて形状を変更した)可能性も考えられます。現・特許法では「特許」が出願の日から20年間、「特許」より簡便な「実用新案」が出願の日から6年間の保護権利を受けられることになっていますが、昭和34年以前の旧・特許法の規定については、一応調べてみたものの、残念ながらよくわかりませんでした。ともあれ、ダッチングマシンの製造が中止されている今、"天虎式"が堅牢な「断面三角状」の活字を継承しなかったことは残念でなりません。


[昭和49年製・天虎工業製乗車券日付器の活字配置]

発行"年"の十の位: 「5・5・4・4・X・X・X・6・X・X」
発行"年"の一の位: 「1・2・3・4・5・6・7・8・9・0」
発行"月"の十の位: 「1・-・1・-・X・X・1・-・X・X」
発行"月"の一の位: 「1・2・3・4・5・6・7・8・9・0」
発行"日"の十の位: 「-・1・2・3・-・1・2・3・X・X」
発行"日"の一の位: 「1・2・3・4・5・6・7・8・9・0」

※ 活字リングにおける出現順。但し、「X」は活字がないことを表す。


 最近、筆者はメールでお知り合いになった方から幸運にも"天虎式"のデッドストックに近い個体(鉄道会社放出品?)を譲って頂くことができました(左・下: 「型式 TA 1 / 製造番号 33780」/ 製造年式 1981」)。
 新品は塗装表面が"梨地様"(ザラザラ)ですが、使い込んでいくうちにツルツルになってしまうようです。また、前面上蓋も最初はヒンジ式に固定されていますが、いかにも貧弱な備え付けなので、開閉を繰り返すうちに(恐らくすぐに)金属疲労で取れてしまうものと思われます。その他、元箱にも製造番号が印刷されていること、前面上蓋の右下端(赤丸部分)に製造段階から"めくれ上がった切れ込み"が入っていることもわかりました。("キズ"と勘違いして筆者はプライヤーで修復してしまいましたが、この切痕は"菅沼式"を含むほとんどの個体で確認できます。一体、何のための"切れ込み"なんでしょうか?)
 なお、この昭和56年製"天虎式"の活字配置は、発行"年"の十の位が「5・5・5・6・6・6・X・1・1・2」となっていて、意外にも平成29年まで対応できる仕様でした。晩年の製品では、概して発行"年"の十の位の活字(種類・数)が増えている模様です。


(参考) (3) 荒牧商店製日附印字器(荒牧式)

 「菅沼式/天虎式」に採用されている「揺動式」とは全く異なる機構で動作するダッチングマシンで、「菅沼式」が出現する以前の少なくとも大正初年頃には既に使用が開始されていたと考えられる。今回、新潟県上越市の「くびき野レールパーク」内にある旧・頸城鉄道(現・頸城自動車株式会社)の「軽便鉄道資料館」に展示されている現存個体を"@kimgwa"様が詳細に取材され、なんと頸城自動車の承認を得て動画の撮影にも成功したとのご連絡を頂いたので、氏のご好意によりその動作を再現したアニメーションを作成してみた(左)。(実際の塗装は印字部周辺の真鍮色を除いて全体的に黒1色。また、オールフリーハンドで作成したため、部品間の接触位置などは多少不正確です。実際の動画映像や画像は氏のHP (http://datingmacine.webcrow.jp/)のほうをご覧下さい。) 「菅沼式/天虎式」に比べるとひと回り以上大きく、図の小さな黒い部分が活字 ("@kimgwa"様によると郵便局の棒型や槌型の日附印のように金属の「文字棒」7本を固定枠内へ直線状に挿し込んで蓋様のもので押さえる構造のもの)、その下の薄幅の緑部分がインクパッドで、レバーを前に倒すことにより巧妙に活字とインクパッドが離れる仕組みになっている。なお、このマシンには器械の(正式)名称らしき表示はないらしく、上記「荒牧商店製日附印字器(荒牧式)」は筆者が付けた仮の名称。代わりに「ARAMAKI TOKYO/造製店商牧荒/地番九目丁四堀丁八本区橋京市京東」という銘板(鋳造プレート)が前面に取り付けられており、いかにも時代を感じさせる。(ちなみに「東京市」にあった「京橋区」は、昭和18年「東京都」特別区を経て、昭和22年から「中央区」の一部となっている。) 「荒牧商店」は現在は全く営業している形跡がなく、ネット等による追跡調査は不可能だった。

 改めて動きをよく観察してみると、極めて微妙なバランスを必要とする「菅沼式/天虎式」のような複雑な機構をとることなく、手前のレバーを奥に押し込むだけで3つ(色付き)の可動部分が順番に接触・連動して @活字面をインクパッドから離す Aインクパッドを後退させつつ券を所定の印字位置に前進させる B活字面を下げて印字する という動作を実現している。但し、券はあらかじめ手前の所定位置に正しくセットしておく必要があり、全体的にレバー操作もやや重たいと考えられることから、「片手で簡単に素早く操作」というわけにはいかなかった可能性が高い。その代わり、構造的に故障を生じにくく、印字も確実、そして何よりも普通の活版印刷と同様に上から「活字組み」をして数字やピリオドを並べる方式を採っているため、「菅沼式/天虎式」に最もありがちで厄介な活字の磨耗や破損、印字不良・欠番といった不具合に対処しやすいという長所があった。(修理の場合は、その「文字棒」だけを触ればよく、しかも恐らく数字やピリオド活字は「年月日」間を自由に移動・交換可能。) 現に、資料館に展示されているこの個体は、頸城鉄道開業時(大正3年)から使用されたものと言われており、現在の活字面は「26.8 8.」となっているので、国鉄で乗車券類の発行日付規定が「日月年」から「年月日」順序に変更された大正9年以後も単に「文字棒」を入れ換えるだけで、少なくとも昭和26年頃まで現役だったことが窺われる。(但し、「26.8 8.」に関しては旧規定による「大正8年8月26日」という読み方も否定できす、また使用時の日付に全く無関係の単なる展示配列だった可能性もあるので、断言はできないことも申し添えておく。)

※ ただ、"@kimgwa"様によると、この活字の「文字棒」は全部で7本しかなく、筆者も画像で確認しましたが、ガイドや周辺枠の造りから、これ以上の追加挿入は不可能と思われるため、このままではピリオドまで入れると「印字不可能な日付」が生じると考えられ、製品の設計上大きな疑問が残ります。まず、"@kimgwa"様が資料館で直にダッチングさせてもらったという「26.8 8.」の印字痕では、明らかに「26」の次のピリオドが1文字分(数字と同じ幅が)あり、例えば数字の右下にピリオドが付いた「6.」などの複合活字が使用されているようには見えないこと、7本の「文字棒」はほぼ均等幅で組まれているように見えることなどから、「XX.XX.XX.」のような"フル日付"では9本の「文字棒」が必要と予想され、たとえ末尾のピリオドを省略しても8本は必要なので、このような日付けでは一体どのように数字やピリオドを並べたのか、非常に不思議に思われます。(「月」と「日」の間のピリオドは省略不可能と考えられることから、"@kimgwa"様は「2610.10」(最悪の場合は「年」と「月」の間のピリオドを省く)といった使用法も想定されておられますが、確かに配列の条件が変わらない限り、他に解釈のしようがありません。また、国鉄の乗車券類でハイフン「-」の挿入が始まったのは昭和7年頃からなので、このマシンにはハイフン活字の設備がなかった可能性が高く、"@kimgwa"様もご指摘の通り、偽造防止のため恐らく"1桁の「月」「日」部には余計な空白を挿入しない"という規則はあったものと思われます。但し、上記資料館の「26.8 8.」の場合、「8」月の次がピリオド「.」ではなく1文字分の空白となっていることは説明がつかないので、これに関しては単なる印字不良だった可能性もあります。) これらの件に関して、もし何か情報をお持ちの方は、是非ご一報頂ければ幸いです。


◆"@kimgwa"様、今回は多方面で多くの貴重な情報を本当にありがとうございました。これからも何卒宜しくお願い致します。


3.ダッチングマシンの"日付"の仕様について

 ダッチングマシンの活字は、発行"年"の部分が「元号年」式になっているため"年月日"各2桁で構成されており、しかも発行"年"の十の位の活字は、メーカーや製造年によってもバラエティがあるが、「製造年代の数字が"2〜3個"」「次の10年の数字が"1〜3個"」「次の次の10年の数字は"0〜2個"」(概ね"菅沼式"のほうが予備が少ない)となっていて、20〜30年以上の耐用を視野に入れていなかったことが窺われる。(それとも"買い替え"を促進するためのメーカーの戦略か?いずれにしてもやや不親切な印象を受ける。)但し、発行"年"の一の位の活字は当然のことながら必ず10個揃っているので、「"改元"直後の10年間に限ってはどの製造年であっても印字可能」な仕様だ。また、発行"月"の十の位の活字は「1」と「-」のみ、発行"日"の十の位の活字は「1」「2」「3」と「-」のみで、発行"月"または発行"日"の数字が1桁になる場合は、恐らくダッチング後の書き込みを防止するためか「-」(ハイフン)を入れて印字するのが慣例となっている。([例] 「1.-2.-3.」) なお、この仕様のおかげで「0.18.39.」のような"わけがわからない日付"も一応印字できるが、利用価値は疑問だ。

 * 右端のピリオド「.」について
 過去の乗車券類(硬券)のダッチングをよく観察すると、発行"年"と発行"月"の右下にはほぼ間違いなくピリオド「.」が印字されているが、発行"日"の右下部分では1〜3割の高い確率で"印字漏れ"(?)の券が見つかる。この場所だけ「最初からピリオド印字用の突起が付いていないモデルが存在した」可能性もあるが、「.」はただでさえ"印字面積が小さい"うえに、右端部分は"構造的に印字圧力がかかりにくい"と想像されるため、大抵は単なる「印字不良」と考えたほうが妥当のように思われる。(現に"うっすらと不鮮明に"印字されているパターンが多い。) しかし、この右端のピリオドに関しては"もともと必要性がない"とも考えられるので、実際、軟券用の"日付スタンプ"などの場合では、むしろ発行"日"の右下部分にはピリオドを付けないケースが多いようだ。

 * 「ヨ」について
 さらに、この他、筆者が入手した"菅沼式乗車券日附器"には、発行"日"の右に「ヨ」という小さな活字が用意されており、レバー式で印字を選択できるようになっている。確かに、昭和30年代発行の古い特急券などで、ときたま「39.-7.-6.ヨ」といった日付を目にすることがあるが、これは一体何であろうか?
 出札窓口の売り上げ計算は、終列車が出た後に行われるのが原則ではあるが、色々な都合により夜の少し早い時間に窓口を一旦閉じて、この作業を行う場合がある。特に、深夜になっても発着本数が多い幹線の大きな駅では、複数ある出札窓口を交代で閉鎖して「他の出札口をご利用下さい」などと札が掛かっている例も多い。その後、窓口業務を再開した場合、「ダッチングは当日でも売り上げは翌日の扱いになる」ため、恐らく券回収後の"審査"の便宜を考えて、このような記号が付けられたものと思われる。("ヨクジツ"の"ヨ"か?) これは「翌日扱いの乗車券類に対する日付の表示方」というちゃんとした規程に基づくものだが、昭和25〜40年の15年間のみ施行されたため、当然のことながら"天虎式"のマシン(昭和41年以降)には「ヨ」の活字はない。(ちなみに、「ヨ」印字の代わりに「ダッチングの下に手書きでアンダーラインを引く」ことも許されていたという。現在はどうなっているのか定かではない。)

 "菅沼式"と"天虎式"では"活字体"にも微妙な違いが見られ、大雑把に言うと"菅沼式"は「時代的で優雅だが不揃いな書体」、"天虎式"は「きれいでスマートだが味気ない書体」という感じがする。(下参照。但し、同じメーカーでも製造年によっては違う活字体が使用された可能性もあるので、断言はできない。) 慣れれば両者の書体を見分けることは比較的簡単で、例えば「天虎式で昭和40年以前発行の日付はあり得ない」ので、"スマートな書体の古い券"を見かけたら要注意と言える。(「偽日付」の可能性が極めて高い。)
(※ その後のご指摘により、昭和40年代初期の"天虎式"では"菅沼式"に似た書体が使われていたことがわかりました。詳しくは[補 足]※5(下)をご参照下さい。)



[菅沼式の活字体]

・「1」の上ハネ・下線が長い。
・「2」「3」「5」の筆末が丸くなっている。
・「7」「9」がやや縦長。「0」がやや横長。



[天虎式の活字体]

・「-」がやや短い。
・ 線幅がほぼ均一。
・ 印字のバランスがよい。

 また、ダッチングマシンの構造上、日付の数字が上下方向に多少ズレることはあっても、「左右方向に離れて印字されることは考えられない」。したがって、右の券などは本来、日付を見ただけであやしいと判断できるのだが、今となっては後の祭りだ。(【九州の私鉄入場券に関する考察】「3.日本鉱業佐賀関鉄道」参照)この券は、発行年(昭和32年)の「3」と「2」が明らかに離れ過ぎており、誰かが悪意を持って「2.-3.29.」とダッチングした後、左端に「3」の活字だけを押して偽造したものと思われる。(多分、ダッチングマシンが昭和40年代以降製造のもので、発行"年"の十の位に「3」の活字がなかったのだろう。)

 なお、戦前の古い券のダッチングを見ると、例えば大正6年1月25日は「25.1.6.」のように活字が逆向き(右から左)に配置されており、「-」(ハイフン)も付けられていないのに気付く。実は、「6.1.25.」のような現在と同じ並びになったのは大正8年12月以降で、「6.-1.25.」のような「-」(ハイフン)の挿入も新たに昭和7年8月に規定されたものだ。さらに、明治30年以前はなんと"漢字"で、しかも発行"年"を入れずに「一月廿五日」などとダッチングすることになっていたという(本当か?)が、果たしてそのような仕様のマシン(自動日付器)があったかどうかはちょっと疑わしい。
(※ その後のご指摘により、なんと上記の「漢字による日付印字器(?)」は実在したことがわかりました。詳しくは[補 足]※4の1.(下)をご参照下さい。)

 ※ どうなるのか?ダッチングマシンの「平成30年問題」
 地方の中小私鉄など、今現在も"硬券"をメインに扱っているにもかかわらず、まだ使えそうなダッチングマシンを廃止して"日付スタンプ"に切り換えるところが年々増えてきているが、これは、旧式になったダッチングマシン本体の故障というより「もともと発行"年"の十の位の活字がないために"現在年"を印字できなくなった」ことが主な原因と考えられる。(したがって、特に平成10年と今年(平成20年)は対応に苦慮した鉄道会社が多かったハズ。) また、最も新しい平成製造の"天虎式"でも、発行"年"の十の位の活字は「2」までしかないことが判明しており、このままでは「平成29年12月31日限り」で全国に設備されているほとんどすべてのダッチングマシンが使用不能となってしまうのだ。(そのときになって、40年以上前の"菅沼式"をどこかから探し出してきたとしても、とても出札現場での再使用に耐えるとは考えられない。) 硬券に"日付スタンプ"でダッチングした例は、国鉄でも既に"大昔"から見られるが、極端に口座数・発売枚数の少ない"委託駅"や駅裏口・乗換口・臨時売場などの"特殊な出札口"、新しい器械が設備されるまでの応急措置などが主体であって、明治以来、硬券とダッチングマシンは切っても切り離せない関係にあった。特に、発売数の多い大きな駅では"出札に掛かる時間"が問題となるため、券の記載事項に重ならないよう押印に気を遣ったり、インクの乾きも遅いと思われる"日付スタンプ"では、窓口業務に支障を来たす恐れも考えられる。そのため、平成30年以降、さらに「硬券廃止」の流れに加速が掛かってしまわないか、切符マニアとしては非常に気になるところだ。


 ※ ダッチングマシンの耐用年数は? 予備の活字はどれくらい必要か?
 "日付印字"(ダッチング)は有価証券である乗車券類を発効・証明する重要な出札業務である。したがって、例えば活字の磨耗や破損等により文字がかすれたり、部分的に筆画が欠けて印字が判読困難になった場合には、速やかに日付印字器の修理や交換が必要となってくる。では、ダッチングマシンはどれくらいの期間の使用に耐えるものだろうか? 製造側(菅沼タイプライターや天虎工業)が考える製品の一般耐用年数は、「発行"年"の十の位の活字」の種類やスペア数を確認すれば、自動券売機がなかった時代(昭和40年代まで)なら最大で20〜30年、昭和50年代以降はプラス10年位と大凡見積もられていたことがわかる。しかし、実際の耐用期間は1日当たりのダッチング回数(出札数)によって大きく左右されるため、例えば都心の主要駅ともなれば、その寿命は非常に短くなることは間違いない。極端な場合、硬券全盛の時代ならば"改札鋏"などと同様「数ヶ月?から数年で活字が磨耗・破損して使用できなくなった」としてもそれ程驚くには当たらないだろう。だが、そのような"非常な酷使"は全国的に見ればやはり例外と考えたほうがよいので、ここでは1日当たりのダッチング回数が数十回からせいぜい二、三百回程度の比較的小さな駅に設備されている大多数の日付印字器について考察してみたい。

 日付印字器は"菅沼式・天虎式"共に、構造が単純で意外と部品点数が少ないうえに堅牢な鋳造部品が多いことから、故障の原因はほとんどのケースで"活字リング"周辺、とりわけ活字部分の磨耗・破損にあると断言して差し支えない(上画像)。その場合、ダッチングマシンを修理・交換するタイミングは「予備のない活字が1つでも不良と判定された時点」と考えられるので、試みに"年月日"全ての活字について「1日100回ダッチング」という前提で「10年間累計」の机上文字使用頻度を単純計算してみた(下表)。はたしてどの活字が最も傷みやすいのだろうか?

活字リング 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 -(ハイフン)
発行"日"一の位 35,000 43,000 36,000 36,000 36,000 36,000 36,000 36,000 36,000 35,200 -
発行"日"十の位 - 108,000 107,200 18,000 - - - - - - 108,000
発行"月"一の位 31,000 61,000 59,200 31,000 30,000 31,000 30,000 31,000 31,000 30,000 -
発行"月"十の位 - 92,000 - - - - - - - - 273,200
発行"年"一の位 36,500*1 36,500*1 36,500*1 36,500*1 36,500*1 36,500*1 36,500*1 36,500*1 36,500*1 36,500*1 -
発行"年"十の位*3 - (365,200) (365,200) (365,200) (365,200) (365,200) *2 *2 *2 *2 -(慣例)

注) 算定期間の10年は元号が変わらないものと仮定。10年間で2月29日が2回あることも加味。なお、これはあくまで理論上の試算であって、実際の磨耗程度は必ずしも表の通りにはなっていないことも多い
*1 その年の暦に依っては2月29日分"+100"加算。
*2 天皇の在位期間を考えると、活字を用意しても実際に使用される可能性は極めて低い。
*3 「発行"年"の十の位」の活字はどれか1つが「365,200」で、他は全て「0」。もし、算定期間が元号元年〜9年の10年間ならば全ての活字で使用回数「0」となる。慣例で元号元年〜9年は頭にハイフンも付けないことにも注意。(例: -4.-3.21.× → 4.-3.21.○)
また、この他に繁忙期(盆正月など)・閑散期(運休)による増減も当然考慮すべきだろうが、あまりに試算が複雑になるため、加味することは省略した。

 考えてみれば当たり前のことではあるが、この表を具に観察すると改めて以下のような点に気付く。
@ 10年というスパンでは、「発行"年"の十の位」の"ある特定の活字1個"に最も負荷が掛かる。
A 構造上スペアを設けることができない「発行"年・月・日"の各一の位」の活字30個の中では「発行"月"の一の位」の「1」及び「2」の使用頻度が最も高い。それでも、思ったよりは各「一の位」の使用回数は多くない。
B 「発行"月"の十の位」の「-」(ハイフン)の使用頻度が突出して高い。逆に「発行"日"の十の位」の「3」はスペアが要らないほど非常に使用頻度が低い。
C 「発行"年"の一の位」の活字は1年間毎日継続して使用されるが、その後は丸9年間1回も使わなくて済む(毎年1個の活字以外は全く使用されない)ので、10年というスパンでは思ったより使用回数が少ない。

 ダッチングマシンの耐用期間の判断基準は、構造上"空きスペース"がなくてスペアを備えることができない「発行"年・月・日"の各一の位」の活字の使用頻度に掛かっていると言える。その際に問題となるのは、1つの活字がどれくらいのダッチング回数に耐えられるかということだが、残念ながら活字の材質が明らかでないうえ、筆者には金属の硬度や脆弱性に関する知識があまりなく、加えて使用条件(ロール間隙やインクの性状、硬券用紙に混入した異物の有無など)によっても負荷が変わると考えられるため、具体的に"何万回"といった数値を挙げることは非常に難しい。しかし、10年間で最大6万回程度ならば「耐用20〜30年」(累計20万回以下)というメーカー側の判断もまずまず頷けるのではないかと思う。(あくまで勘だが、数十万回くらいまでは大丈夫?) もっとも、試算の根拠とした「1日100回ダッチング」という数字は各地の主要駅や大都市部では全く当てはまらない(数倍〜数十倍以上)と思われるので、やはり出札数が多い大きな駅の場合は、それなりに耐用期間を割り引いて考えなければならないと言える。また、前述の通り、活字の肉厚や形状から見て"天虎式"のほうが"菅沼式"より寿命が短い可能性は高い。

 それでは、使用頻度が高くて傷みが早い「発行"年月日"の十の位」の活字のスペア(予備活字)はどれくらい必要であろうか? くどいようだが、構造上「発行"年・月・日"の各一の位の活字」についてはスペアを造ることができないため、これら30個の活字のうちどれか1つでも使用不能となれば、その時点で即修理・交換が必要となる。したがって、各"十の位"に必要以上の予備活字を設けてもあまり意味はなく、理論的には上表に掲げた「予備のない活字で最も使用頻度の高いもの(赤いセル)と使用回数試算数値を比較して単純に倍数計算した数(プラス1程度)」を用意しておけば十分とも考えられる(下表)。もっとも、空きスペースがあるならば、それ程余分にコストが掛かるとも思えないので、"予想外の破損"等に備えてスペアを多めに用意しておくことは全く無駄ではないだろう。("買い替え"を促すメーカー側の思惑は別として...。) なお、表中の「-」(ハイフン)はあくまで理論値であり、この活字だけは多少の磨耗や破損があってもあまり問題ない(判読に支障はない)と考えられるので、実際のところは予備を含めて2〜3個で十分ではなかろうか。

活字リング 活 字 菅沼式 天虎式 理想的な配置(予備を含めた数)
発行"日"十の位 1 2個 2個 2個
2 2個 2個 2個
3 1個 2個 1個
- 1個 2個 2個
発行"月"十の位 1 2個 3個 2個
- 1個 3個 5個

 「発行"年"の十の位」の活字については、上表の試算から判断すると1種類の活字について5〜6個の予備が必要ということになるが、他の種類の活字を全く用意しないわけにもいかないので、活字リングの配置スペース(10ヶ所)を考えると、確かに「1種類につきスペア2個で合計3個」くらいが妥当な数かもしれない。しかし、スペア2個では1つの活字に理論値の2倍以上の耐久を期待しなければならないため、ある意味では"修理・交換の引き金"になる可能性が最も高いとも言える。(もっとも、よく考えてみれば「発行"年"の十の位」などは多少判読困難でも"自明"である場合が多いだろうから、印字に多少の磨耗や欠損があっても業務に支障はないかもしれないが...。) また、「元号印字式」を採用する限り、それに加えて天皇陛下の在位年数を考慮しながら活字の種類やスペア数を加減しなければならない。活字種類の上限としては、64年間続いた"昭和"の「6」はむしろ例外と考えるべきで、(製造メーカーの"営業的思惑"を抜きにすれば)今後は「1」〜「4」の活字全てと適宜「5」を製造時の情勢に応じてバランスよく配置するのが望ましいと考えられる。(例えば、"平成26年"製造(活字リング交換修理)ならば「2・2・2・3・3・3・4・1・1・1」、"(新元号)35年"製造で天皇陛下の御年65歳ならば「3・3・4・4・4・5・1・1・1・2」など。いずれにしても「1」「2」の活字は必ず備えるのがよいと思う。あくまで個人的意見ですが...。)


4.ダッチングマシンの調整と操作法

 構造上、ダッチングマシンの印字は必ず"年月日"の"日"の側(右端)から行われる。印字開始点を決めるのが3.Eの金具らしく、筆者が手に入れた"菅沼式"のマシンではデフォルト位置でネジ止めすると、硬券の短辺を上にして「A型券ではほんの少し右寄り」「B型券ではかなり左端」に印字されてしまう。他に調整する方法があるのかもしれないが、よくわからなかった。
 また、3.Gのネジを手前方向に回して締めるとロールの間隙が開き、逆向きに緩めると間隙が狭まる仕組みになっている。したがって、かなり薄手のいわゆる"半硬券"でも、ちょっと分厚い特殊な硬質紙でも一応印字はできる。たまに、文献を調べていると「券が(器械の隙間に)入らないので、もう使用できないようだ」といった記事を目にするが、これは多分調整可能なハズだ。但し、ロールの間隙はかなり微妙なコントロールが必要で、開け過ぎると印字が不鮮明になるし、締め過ぎるとダッチング時に券が引っ掛かったり、活字の磨耗を早めることになりかねない。頻繁に入場券を折ったり、筋(スジ)を入れてしまう"出札氏"は、この辺りのロール調整不良が原因と思われる。色々と試したが、結論的には多少券の挿入に抵抗感があって、印字跡がほんの少し"圧痕"様になっているほうが、インクがくっきりして美麗な感じだ。

 ダッチング操作は、活字とロールの間隙に券を左側からゆっくり挿入して行う。途中、券の右端が上図3.Eの部品に当たって重くなるが、構わずに券を右側に引き抜くと急に抵抗感がなくなって印字が終了する。あまりに"速く"通すと、下のように端が切れたり右上がりに曲がって印字されてしまうことがあるので要注意。また、日付の変更は通常、専用のレンチを使って行うが、印字面(選択活字)を直視できないうえに、リングは下向きにしか回せない仕組みになっている(1活字ごとにカチッとロックされる)ので、慣れないと活字の設定にちょっと戸惑う感じだ。

 なお、ダッチングの"位置"は、国鉄時代の"旅客営業取扱基準規程"197条に「発行日付印は(券)表面の左端に押す」とはっきり規定されており、誤って券の右側に押されたものは"逆日付"(国鉄用語かどうかは不明)といってマニアにも敬遠されている。但し、往復乗車券や乗車券と特急券を連綴したものなど、中央に断線があって左右を切り離すことが可能な券種については、当然のことながら券の右側にもダッチングが必要となる。もっとも、A型券を縦方向に連綴した"C型券"(現在は廃止)に限っては、構造上「"下片"のダッチングを左端に行うことは不可能」なので、やむを得ず券の"下端にしかも上下逆向きに"押した例が多い。(【”硬券”について】参照。とはいうものの、極稀に"下片"でもちゃんと左端にダッチングされた(決して"ゴム印"の日付ではない)C型券を目にすることがあり、以前から不思議に思っていた。理論的には、券を断線部分で"山折り"にすれば切らなくても下片・左側にダッチングは可能と思われるが、券の厚さが2倍になるので、その都度マシンの前蓋を開けてロールの間隙を調整しなければならず、とても実用的な方法とは言えない。)


5.古いダッチングマシンのレストア

 ダッチングマシンは"機械"ではなく"器械"(日付印字機ではなく日付印字器)というべきもので、基本的に構造がシンプルなため、ある程度は個人で修理やメンテナンスが可能と思われる。製造後数十年経った古いマシンでは、あちこちに錆びや塗装剥げ、たまに大きな傷や前蓋の変形などが見られるが、肝心の動作には影響がないことが多い。大きな部品は破損しにくいよう非常に頑丈に作られているし、小さなネジやバネは最悪の場合でも市販のもので代用できそうだ。むしろ、一番問題となるのは、「活字周囲のインク固着に因るリングの回転不良」ではないかと思われる。筆者が入手した"菅沼式"のマシンではほとんど日付変更ができない状態だったが、分解清掃することによって一応解決した。

[分解清掃の手順]

 A活字ホルダー牽引バネをフックから外すと、本体から@活字ホルダーを簡単に取り出すことができる。次に、裏側のL活字固定フック調整金具のネジを緩めて取り外し、K活字固定フック(6ヶ所)をすべて引き上げて、周囲のインク滓をきれいに拭き取る。固着したインクの溶解には"高濃度アルコール(エタノール)"が有効で、これを"脱脂綿"や"綿棒"に浸して強くこすれば、大抵のインク汚れは除去可能と思われる。(必ずゴム手袋を着用のこと。)但し、こびり付いたCインクパッドや硬券紙の線維屑はアルコールでは溶解できないため、活字の周囲の滓はアルコールを補充しながらツマヨウジなど先の細い器具で丹念に掻き出すしかない。また、J活字固定・変更用爪(1リングに10ヶ所)前後の溝に詰まった滓は、短冊切りにした"厚紙(厚さ0.8mm 以下)の断面"を利用すれば効率的に清掃できる。
 ある程度大きな滓が除去できたならば、今度はアルコールを活字リング(6つ)の間にも浸潤させ、指でリングを強く回転させながら、深い部分にこびり付いたインクを溶かし流す。最後に、6つの活字リングが滑らかに回転できるようになったことを確認して、乾いた布でインク汚れを丹念に拭き取り、一昼夜放置しておく。インクはアルコール分が飛んで乾燥すると再び固着するため、翌日、またリングの回転が"粘る"ようならば、滑らかになるまで同じ操作を繰り返す。("錆び"の原因になるかもしれないので、活字ホルダー全体をアルコール液に漬けておくのはやめたほうがよい...気がする。)そして、アルコールが完全に蒸発してもリングの回転に問題がなければ、念のため、リングの隙間などに少量の"防錆潤滑油"を注意深くさして、余分な油をきれいに拭き取り、元のように組み付ける。暫くは、毎日のようにリングを回転させて、粘りや引っ掛かりがないかを確認したほうがよい。
 また、擦り切れて使用できなくなったCインクパッドは、市販の"フェルト"素材などで恐らく代用可能と思われる。試していないが"補充インク"も、必ずしも専用品を使用する必要はない感じだ。(但し、"酸性インク"は金属活字を腐食する可能性があるので、要注意。)



《"菅沼式乗車券日附器"の改良にチャレンジ》

 前述の通り、菅沼式・天虎式共に"発行年"の"十の位"の活字が2〜3種類(製造から20〜30年以内)しかないことが多いため、折角ダッチングマシンを手に入れても、なかなか好きな日付を印字するというわけにはいかない。特に、現在の日付(平成20年〜)をダッチングする場合には、比較的製造年代の新しい天虎式か極めて古い昭和20年代以前の菅沼式を手に入れなければならないので、非常に入手困難(高額)だったり、何とか手に入れても活字の磨り減りやリングの回転不良などが原因で満足に動作するものは少ないと思われる。また、現在ではメーカーによる保守は期待できないため、修理に出すことも叶わない。そこで、今回、比較的安く手に入れた昭和35年製造の"菅沼式乗車券日附器"で現在日付(平成20年〜)をダッチングできるよう、独自に改良を加えてみた。

(1) どんな方法が考えられるか?

 最もオーソドックスな方法は、活字を配列している"正十角形"のリング部品を交換することだが、まず第一にこの部分の分解が可能なのかどうかがわからない。メーカー側でこういった保守を考慮しているならば、リングの"芯"に相当する部品(5.左図A)を「どちらかの向きに槌打すれば外れるのではないか」とも思ったが、怖くてできなかった。また、もし分解できたとしても肝心の交換部品(ジャンク?)自体がなかなか手に入らないので、どっちにしてもちょっと無理そうだ。
 となると、姑息な方法だが、何とか「欲しい活字だけを自作してリングに貼り付ける」しかないのではないか?.......かなり幼稚な発想だが、実際にトライしてみた。

(2) 活字の自作

 まず、活字の材質を何にするかだが、ダッチング時に活字部分には"ロール"が押し付けられるため、"下"方向と正面"右"方向から強い力が掛かることを考慮しなければならない。いくら紙製の"券"を介在しているとはいえ、硬質紙やプラスチック、鉛などの軟金属ではすぐに破壊・変形が生じるに違いない。また、それにプラスして"精密な加工性"も要求されるので、やはり"鉄に匹敵する硬い金属"でなければ十分な使用に耐えないと思われた。
 次は、実際にどうやって数字の形を作るか、である。縦5mm・横2.5mm の小さな活字を全部フリーハンドで削って精緻な凸型に残すのは並大抵のことではない。(しかも"鏡対称"に彫らなければならない。相当熟練した彫金技術が要るので素人では困難。)試験的にアルミ板を回転切削器具で削り、スタンプで紙に押してみたが、満足には程遠い出来栄えだった。やはり、面倒でも既存の活字を精密に型どりして、溶かした金属を流し込む"鋳造"に依るしかないと思われた。

(3) 活字の型どり

 ちょうど2個の活字が左右に収まる大きさ(縦5mm・横5mm)の型どり用の固定枠(トレー)を即時重合レジン(粉と液を混ぜて練和すると固まるプラスチック) で作製し、シリコーン系の印象材を手早く練って填入、活字部分に圧接して型をとる。このとき、活字に残るインク滓をできるだけきれいに取り除いておかないと、仕上がりが荒れてしまうので要注意。

(4) 鋳型の作製

 (3)で採った型に気泡が入らないようワックス(ろう)を少量ずつ溶かし流し、厚さ1.5〜2mm 程の板状に整える。これを金属枠内に固定して鋳込口を作り、水溶した鋳造用埋没材(耐熱石膏)で活字パターンを隙間なく覆い、電気炉でワックスを焼却すれば鋳型が完成する。(ワックスの部分が空洞になる理屈。)

(5) 鋳造

 今回、金属には歯科用の12%金銀パラジウム合金(融点・摂氏980度)を使用した。エアバーナーと遠心鋳造機を使って、溶かしたメタルを(4)の鋳型にキャストする。右は鋳込みが終了した活字片。

(6) 形態修正と研磨

 目的とする活字は縦5mm・横2.5mm・厚さ1mm という小さなものなので、ダッチングマシンのリング幅に正確に適合するよう精密に仕上げる必要がある。(これが一番大変かも。)回転切削器具で大まかに形態修正して、微妙な所は目の細かいサンドペーパーで調整する。このとき、印字面はできるだけ触らないように注意しなければならない。ほんのちょっとでも余分に削り込んだら、今までの苦労が水の泡となる。右は研磨調整が終了した活字片。

(7) 試適

 完成した活字片をリングに仮合わせしてみる。6つ(年月日それぞれ2桁)の活字面は、横から見ると緩やかな弧を描いている((8)左画像の赤ライン参照)ので、このカーブに合わせるよう微妙に調整しなければ、活字が引っ掛かったり、無理な力で破壊・剥離してしまう。これでよいと思っても、念のため極薄い両面テープで仮固定してから、実際にダッチングしてみる。

(8) ボンディング

 テストでうまく印字できたならば、活字をリング面に接着固定する。今回は歯科用の強力ボンディング剤を使用した。実はこれが一番のネックで、金属用接着剤を使っても恐らく長期の使用には耐えられず、いつかは剥離が生じると思われるが、こんな小さな部分を溶接したりハンダ付けすることは不可能と思われるので、やむを得ない。

(9) 最終テスト

 右は実際にB型にカットした厚紙でテストしたもの。数字の形態も線の細さも本物と遜色ない仕上がりとなった。その後、100回以上連続してダッチングテストを行ったが、今のところ活字片が剥離・破損する気配はない。

(10) おわりに

 このダッチングマシンは昭和35年製造のため、リングには「3」の活字が2つ、「4」の活字が1つ付いており、「2」の他にあと6つの活字が貼り付けられるので、「1」「5」「6」などの活字を製作して貼り付ければ、すべての日付に対応できることになる。また、接着面の強度が十分ならば、同じ方法で"磨耗した活字"部分を削ってリニューアルすることもできるかもしれない。但し、"天虎式"では活字部分が非常に薄い(0.5mm)ので、製作には工夫が要りそう。
 なお、この方法はかなり専門的な器具・材料が必要なため、アクセサリー業者や歯科技工業者などの手助けがなければちょっと難しいことも付け加えておく。

★ 上記の試みはあくまでも個人的な"実験"です。真似をして大切なダッチングマシンを破損しても、当方は一切責任をとれませんので、ご了解ください。

☆ また、"ダッチングマシン"に関する情報をお持ちの方は、是非ご一報下さい。


[補 足]

※1 その後、"日付印字器"に大変詳しい川崎祐二様から当ページ掲載内容の誤りや"日付印字器"に関する貴重な追加情報等、たくさんの貴重なご教示を頂きました。氏のご好意により、ここにまとめてご紹介させて頂きます。

1."菅沼式印字器"について
私が確認した菅沼式の印字器の中で最も古いものは昭和12年製です。会社名は『菅沼タイプライター研究所』となっており、全体のサイズも『Bタイプ』に比べ縦方向に5センチ位大きめでした。これは、"文字輪ホルダー"と"乗車券受け"の下側振り子が長めに設計されていたためです。これをもう少しコンパクトにまとめたものが『Bタイプ』だと思います。初代も『Bタイプ』も構造は全く同じものでした。
 時代は下って、昭和40年代の製品では大規模なモデルチェンジが行われています。本体の塗装は後年の天虎式と同様に"明るいグレー色"となり、"翌収分"を表す『ヨ』の機能が廃止されます。また、"文字輪"は文字のフォントこそ菅沼式独特のものでしたが、その材質はなんと"乳白色のプラ製(!)"で、その構造は後年の天虎製と同等の機構でした。これは、"日付印字器"からの撤退を前に事業を継承してくれる会社が見つかるまでの"ツナギ的なもの"だったのではないかと考えています。これらには『Cタイプ』などの標記はありませんでしたが、実質的にはA・B・Cの3タイプが存在したことになります。
2."天虎式TA−2型"について
タイトル通り、天虎製には『TA−2型』が存在しました。こちらは年号を"西暦表示"としたもので、おそらく海外への輸出を視野に入れたものではなかったかと考えます。実際にどの程度普及したかは判りませんが、製造台数はそんなに多くはないと思われます。
3."文字輪振り子センターピン脇のネジ穴"について
筆者注:上図[構成部品]Nのネジ穴のこと。
このネジ穴は"給油口"などではなく、"振り子"が戻った際の衝撃で"センターピン"が脱出するのを防止するための"捨てネジ"です。
4."印字の際の隙間調整"について
特に天虎式の場合、調整ネジを1/6回転させただけでも隙間に大きな差が出ます。私の調整法は、厚さ0.7ミリ(正規サイズ)の硬券を印字する際に、印字器本体に手を触れることなく軽く印字ができ、さらに印字部分に軽く凹みが残る程度としています。この加減ならば印字器の活字の摩滅も軽減でき、かつ"乗車券受け振り子支え腕"への必要以上の負荷も軽減できます。
5."分解清掃"について
筆者注:活字リング(川崎様によると"文字輪")の"芯"に相当する部品(川崎様によると"センターピン"5.左図A)はやはり分解可能な仕様らしく、併せて以下のような清掃手順をご教示頂きました。
(さらに)"センターピン"を抜いて"文字輪"の穴の部分も清掃することをお奨めします。"センターピン"の抜き取りは左右どちら側からでも可能で、ピン抜き1本で簡単に抜き取れます。抜き取る際は、脱出防止用ネジと印字位置調整金具の取り外しもお忘れなく。また、分解の際の最重要事項としてネジの紛失防止が挙げられます。菅沼式では"JIS規格以前の旧規格のネジ"を使用しているため、ネジ山のピッチが今と違っており、他のネジでは代用が利きません。紛失すると現在入手は不可能ですので、ご注意下さい。

★ いずれも、驚きかつ耳寄りな情報ばかりで、真に感謝に絶えません。また、氏も"日付印字器"の延命を模索しておられるとのことで、「比較的台数の多い天虎式の文字輪再生に取り組み、ある程度の成果を収めて現在試験中」との由でした。ダッチングマシン消滅の危機に際して、大変心強い限りです。

※ その後、"十六夜はじめ"様よりメールを頂戴し、"菅沼式"で使用されているネジ(規格[#5-40×1/4]と言うインチネジ)は、現在もネジ屋さんで探せば購入可能とのことでした。

◆"十六夜はじめ"様、参考になる情報を本当にありがとうございました。


※2 さらにその後、川崎様に無理を言って、注目の"天虎式文字輪"自作の状況を報告して頂きました。大変参考となる話ですので、再び氏のご好意によりメールの内容をご紹介致します。

まず、材質選びから始めました。見たところ"型抜きのための打痕"があるので、鋳造製であること、磁石に反応しない材質であること、さらに質量や色合いから"ダイキャスト製"であると仮定して、印字器持参でダイキャスト製作会社を回りました。(筆者注:.....脱帽ですm(_ _)m。)しかし、確かにダイキャスト製ではありましたが、実際に発注するとなると100や200のロットでは金型代などを含めて法外な金額になることが判明したため、個人での製作依頼は断念せざるを得ませんでした。このため、"金属文字輪"の方向はあっさりと諦め、他に摩耗と衝撃に強く、プリンのように型に流し込んで固めることができるような流動性の良いもの、さらに硬化時間が遅く作業時間が十分確保できるもの、という条件に合致する材質を探したところ、ついに『鉄粉を含んだレジン』を発見しました。これはA剤とB剤を一定の比率で混合するだけのもので、作業可能時間に若干の不満は残るものの、ある程度満足する結果が得られました。これをシリコンゴムで型どりしたものに注入してやれば簡単にできあがります。現在までに約8000〜10000回印字テストを行っていますが、摩耗も少なく印字状態も良好です。

★ 川崎様の"天虎式文字輪"自作法は、筆者の上記実験法に比べて「より再現性耐久性が高く、操作が簡単なうえに特殊な装置も必要なく、何よりも"大量生産"が可能」と思われるため、ひょっとすると趣味の分野を超えた実用性(出札現場での修理使用など)も期待できそうです。


◆川崎様、貴重なお話を本当にありがとうございました。



《"天虎工業製乗車券日付器"の修理にチャレンジ》 (ご協力:川崎 祐二氏)

 その後、さらに無理を言って、上記の川崎様特製"天虎式文字輪"(6パーツ)の試作品を提供して頂くことができましたので、これを使って実際に"天虎工業製乗車券日付器"の修理にチャレンジしてみました。具体的なパーツ製作方法も併せてご紹介致します。

(1) 川崎氏オリジナル"天虎式文字輪"の製作方法

@ 文字輪の型採り
[材料]
・GE東芝シリコーン TSE−350(1kg入り)
・計量カップ(塩ビ製の安価なもので充分)
・塗料皿(直径5cm、深さ1cm程度)
・割り箸
[手順]
1) シリコーンと硬化剤を指示通り配合し、割り箸で良く混合する。
2) 攪拌が完了したら、割り箸に付着したシリコーンを利用して、型採りする文字輪活字の「4」「6」「8」「9」「0」などの気泡の入りやすい部分に埋めていく。
3) 活字面全体にシリコーンを盛っていく。(文字輪の穴の部分を指でつまんで、シリコーンの付いた割り箸で文字輪を回すように。)
4) シリコーンの塗布が終わった文字輪は、平らな面を下、歯車面を上にして塗料皿に置いていく。(この際、塗料皿と文字輪の隙間にシリコーンが極力残らないよう圧着させる。指でギュッと押す程度でOK。)
5) 割り箸にタップリとシリコーンを絡ませ、滴りを利用して、文字輪の穴、文字輪の周囲の順に埋めていく。(気泡がある場合は、爪楊枝の先などで潰しておく。)
6) 塗料皿の口元までシリコーンを流し込んで、固まるのを待つ。(温度差もあるが、約8〜12時間前後。)
7) 硬化したら塗料皿から取り出し、母形を取り出せば"型"の出来上がり。

A レジンの注入
[材料]
・"鉄粉"を含んだ即時重合型"レジン"(製品名は不明)
 A剤とB剤を一定の比率で混合するだけで固まる非常に硬質のプラスチック素材で、やや高価らしいが、主剤100gで12〜13個程度の文字輪を製作可能という。
[手順]
1) 2剤をよく攪拌し、@で作製した"型"にゆっくりと流し込む。調合したてのレジンはかなり流動性が良く、不用意に流し込むと最後は表面張力によって盛り上がってしまうので要注意。後の調整が大変になるらしいので、「縁ぎりぎりまで、ちょっと足りないか?くらい」に注入するのがベストという。また、気泡があったら"爪楊枝"で潰しておく。
2) 注入が終わったら、"クリアファイル"(文具)を塗料皿と同じくらいの大きさに切り、"型"の上に被せておく。(表面を平らにきれいに仕上げるため。)
3) 硬化は室温で約12時間前後。時間が経過したら、上に被せた"クリアファイル"の小片を持ち上げてみる。「パリッ」と言う感じで剥がれれば成功。
4) 後は"型"から取り出せば文字輪の出来上がり。流し込む量が適正ならば、平らな面をほとんど調整する必要はないとのこと。

B "発行年"の"十の位"専用文字輪の製作
 オールアラウンドな日付印字に対応するためには、"発行年"の"十の位"専用に全くオリジナルの文字輪製作が必要となる。かなり至難な作業に違いないが、川崎様は下記の方法で見事に実現している。
[手順]
1) まず、任意の文字輪(必要な"数字"を含むもの)を@の手順で型採りする。
2) 固まったら母形を取り出して、「必要な文字の部分だけにレジンを流す」。このとき、アイスクリームの木の匙などでこじるようにして余分なレジンを除去しておく。
3) レジンが硬化したら活字片をヤスリに載せ、"指も一緒にヤスリ掛けする"ような感じで、各部が0.5mm(長さ3mm)でかつ平らに仕上がるよう修正する。(出来の悪いものはこの作業の過程でポキポキ折れてしまうとのこと。)
4) 完成した活字片を文字輪の"空き部分"へ慎重に位置を定めて接着する。
5) これを「再度シリコーンで型採り」して、レジンを注入すれば完成。

 今回、川崎様から提供を受けたオリジナルの"天虎式文字輪"の試作完成品。精度・硬度・色調共に申し分ない。"発行年"の"十の位"の活字は「1・1・2・2・3・3・4・4・5・X」(右図)のようになっていて、(昭和)60年代を除く全ての日付に対応可能。これを天虎工業製乗車券日付器の金属製文字輪とそっくり入れ替える。

(2) センターピンの分解

 2.(2)図A活字ホルダー牽引バネをフックから外し、本体から@活字ホルダーを取り出す。次に、E印字位置調整金具及びL活字固定フック調整金具、Nセンターピン脱出防止用捨てネジを緩めて全部取り外し、K活字固定フック(6ヶ所)をすべて引き上げた状態で、5.左図Aの"センターピン"の露出端を真横から少しずつ槌打ちしてピンを抜き取る。(専用の"ピン抜き"を使うのがベストだが、ピンの断面直径より少し小さい適当な棒状の金属とハンマーがあればなんとか外せる。) これで活字部品は完全にフリーな状態となるので、6つの"文字輪"と3つのHピリオド「.」活字(板状)をゆっくりスライドして取り外す。各部品は位置の"入れ替え"ができないので、組み付けに支障を来たさないよう順番・挿入向きを記録しておいたほうが無難と思われる。右は分解清掃が終了した状態。

(3) 文字輪の組み付け

 分解と逆の手順でオリジナル文字輪を組み付けていく。極めて精度が高いため、無調整でも全く"緩み"や"ズレ"がなく、組み付けはわずか10分で終了した。右は修理が完了した状態。

(4) 印字テスト

 右は実際にB型にカットした厚紙でテストしたもの。数字の形態も線の細さも本物と全く遜色ない仕上がりだ。氏によれば、最低でも1万回のダッチングに耐えられるという。これだけの完成度と耐久性があれば、実際、"出札現場用"に鉄道会社等へ部品供給することも可能ではないかと思われる。是非、「ダッチングマシン延命の"切り札"」となることを期待したい。


◆川崎様、貴重な試作品のご提供、度重なるご教示に対しまして、改めて深く御礼を申し上げます。



※3 さらにその後、"乗車券類"のあらゆる分野に造詣が深く、ダッチングマシンをなんと17台も所蔵されているという加田芳英様からも"日付印字器"に関する貴重な追加情報やたくさんの資料のご提供を頂きました。氏のご好意により、ここにまとめてご紹介させて頂きます。

1."天虎式印字器"をめぐる近年の情勢について
昭和60年代には、(愛好家でも)大阪の鉄道部品卸商などで新品を取り寄せることができました。当時の価格は25,000円くらい。平成10年頃、"有田鉄道"では"天虎式印字器"を修理に出すことになり、(当時"ボランティア社員"のような立場におられた加田様が)『天虎工業』本社に電話をかけたところ、結局宮城県にある同社工場の方で修理を受け付けてもらえました。活字部分、スプリング、フェルト、ゴム部分などの新品交換で、費用は18,000円くらい。その時には『既に完成品の在庫はない』という話でした。今ではもう修理もしてくれないのではないでしょうか? 昨年、平成20年以降のダッチングに対応できるよう、地方私鉄各社に共同発注を呼びかけた方がいたそうですが、結局(受注可能な)最低数にも達せず頓挫した模様。"紀州鉄道"にも発注の呼びかけがあったそうですが、同社には一応"発行年"の"十の位"に『2』の活字があるマシンがあるとのことでした。
2."菅沼式印字器"の付属部品について
管理局によって違うかもしれませんが、関西方面では乗車券類発行の翌日勘定分を『翌報扱い(ヨくほうあつかい)』と言い、この機能を追加するために、"菅沼式"では『ヨ』活字に加えて『"アンダーライン"を印記できるモデル』が存在しました(下記"ギャラリー"参照)。しかし、この"アンダーライン"機能があると非常に文字輪を回転(日付変更)しにくいため、(出札側で?)部品を取り外してしまうケースも多かったようです。


《"日付印字器"ギャラリー》 (資料提供:加田 芳英氏)

A. 菅沼式 [昭和12年2月製]: 「菅沼研究所」・製造番号「10772」。国鉄九州で使用されたもので、"大里用品庫"の備品シールあり。"アンダーライン"が挿入できる"胴長"タイプで、その機能も残っているが、"発行年"の"十の位"の活字部分は昭和30〜40年代用に変更されており、10〜20年代は印字できなくなっているという。
 

B. 菅沼式 [昭和26年12月製]: 「菅沼日附器株式会社」・製造番号「52071」。全体黒色塗装。
 

C. 菅沼式 [昭和27年4月製]: 「菅沼日附器株式会社」・製造番号「52510」。"前蓋"以外は青色塗装に変更?
 

D. 菅沼式 [昭和27年6月製]: 「菅沼タイプライター営業所」・製造番号「58050*」。さらに緑色塗装に変更? 「実用新案」登録番号表示がなくなり、替わりに「アンダーライン入」の刻印があるが、部品は既に取り外されているとのこと。
 
* その後、"@kimgwa"様から「製造年月から推してC.とD.の間の製造番号が5500以上も開いているのは不自然で、『58050』は『53050』の間違いではないか」とのメールを頂き、改めて資料を拡大してよく観察しましたところ、氏のご指摘の通りD.の製造番号の不明瞭な文字「8」は「3」と読むのが妥当と思われました。謹んで訂正させて頂きます。

E. 菅沼式 [昭和34年11月製]: 「菅沼タイプライター株式会社」・製造番号「65413」。ついに「MODEL A」を確認! 筆者が手に入れた2.(1)の「MODEL B」と同じ部品構造で、「ヨ」活字が付属していないタイプと思われる。
 

F. 菅沼式 [昭和45年3月製]: 「菅沼タイプライター製造株式会社」・製造番号「83017」。全体灰色塗装。"文字輪"(活字部分)が金属ではなく樹脂製(乳白色?)。基本的な構造は従来と同じだが、外観が一新されており、長年使用された「菅沼式乗車券日附器」の銘も入っていない。このモデルの出現は恐らく昭和40年以降とみられ、また昭和45年以降間もなく生産中止となった可能性が高い。
 

★ 余談ながら、筆者所有の昭和35年7月製"菅沼式"「MODEL B」の製造番号は「66376」なので、ぴったり上記EとFの中間に該当し、しかもA〜Fの製造番号の連続性に矛盾がないことから、「菅沼式では戦前から最晩年まで"通しの製造番号"が付けられていた」可能性も考えられます。もし、この仮説が正しいならば、33年間(昭和12〜45年)の製造数は7万2千台余りということになり、1年間に2千台強という計算で強引に逆算すると、「菅沼式の製造開始は早くても昭和7〜8年以降」という結論が得られます。 ..........皆様はどう思われるでしょうか? (※4の2.(下)参照)

G. 天虎式 [昭和51年製]: 鉄道会社放出の未使用品。天虎式に関しては「極初期から最晩年に至るまでほとんどデザインの変更はなかった」と思われるが、「インク皿」(上図[構成部品]Cインクパッド)のフェルトが上にあがり過ぎないよう、「フェルト磨耗ストッパー」を追加するなどの小規模の改造は行われた模様。また、「取扱説明書」は現存数の少ない貴重な資料で、これを見ると「天虎式日附印字器」という本体名の他、「数字ホイル」(当ページ中の"活字リング"または"文字輪"に相当)、「ラチェットギヤ」(同じく"活字固定・変更用爪"に相当)、「数字ホイル廻転スパナー」(同じく"日付変更用レンチ"に相当)などの正式名称を知ることができる。
 


[天虎式日附印字器の活字自作]

 また、加田様も"発行年"の"十の位"問題を解決すべく、なんと「樹脂成型の活字」を試作されたとのことでしたので、早速サンプル(右画像)を提供して頂きました。適当なサイズに切断してから厚みを調整後、"数字ホイル"の空きスペースに接着剤で貼り付けるだけでよく、筆者も手持ちのマシンでテストしてみましたが、印字結果(右下)も良好です。加田様によると、「耐久性には問題があるかもしれないが、1cm四方100円程度の低コストで一度に大量製作が可能」というお話でした。(もっと硬質の樹脂を使って成型することもできるそうです。) 今回、川崎様、加田様をはじめ"日付印字器"の延命を模索する愛好家が結構おられることがわかって、筆者もうれしく思いました。他にも"グッドアイデア"をお持ちの方がおられましたら、是非当HPへご一報下さい。


◆加田様、今回もまた数多くの情報・資料の提供を頂き、本当にありがとうございました。


※ ダッチングマシンの活字自作につきましては、市販の"造形補修剤"「プラリペア」と「型取くん」(武藤商事)を使った割合簡単な方法を"メル友"様からご教示頂きましたので、氏のご厚意によりここにその製作手順と留意点などをご紹介致します。操作にはある程度の"慣れ"が必要かと思いますが、比較的安価な材料のうえ操作手順も簡便ですので、特に"発行年"の"十の位"の活字がないマシンを所有しているマニアの方々には朗報かもしれません。

 先日、天虎工業のダッチングマシンを購入する機会に恵まれましたが、購入した物は1974年製であるため年・十の位の活字が、4が5つ、5が2つ、6が1つしかなく、平成20年・30年代が刻印できない状態でした。貴殿のホームページを拝見し、何とか活字を簡単に作成出来ないか?といろいろ調べたところ、『プラリペア』という商品があることを知り、これで活字を作成してみることにしましたので、紹介をさせていただきます。


【プラリペアでお手軽にダッチングマシンの活字を作成する】

 『プラリペア』は、武藤商事から発売されている商品で、同社から発売されている『型取くん』とセットで、プラスチックの部品を作ることができる造形補修剤です。

[製作手順]

1) まず、ダッチングマシンの活字部分を外し、市販のパーツクリーナー(KUREブレークリーンなど)で付着したインク汚れや油分を洗浄します。


2) 『型取りくん』を熱湯に浸し柔らかくなったところで取り出し、薄く延ばします。適度な硬さになったところで活字部分を押し付け、型をとりさまします。


3) 出来上がった型に専用のニードルを用い、プラリペアの粉を溶剤で溶かしたものを流し込みます。(流し込むというより、置いて溶剤を追加しながら均す感じ。薄く作ることがコツです。)


4) 5〜6分で硬化しますが、念のため15分程置いて型から外します。

5) 出来上がった活字の裏面をやすりで平らに削ります。(極薄にしないと、活字部分が高くなりすぎ、ダッチングをしたときに引っかかるなどの障害が出るので、他の活字と高さを合せることが重要です。)

6) 日附活字円盤 年・十の位の数字が無い部分に極軽くやすりをかけ、表面を荒らします。(他の数字部分を削らないように充分注意ください。) 続いて、やすりをかけた部分と5)で調製した活字の裏面両方に合成ゴム系ボンドを薄く塗布します。


7) 5分程経って表面が乾いたら、ピンセットを用い、適切な位置に貼付します。


8) 日附活字円盤を元にもどして完成です。

 活字部分は硬さもあり、貼付した部分は合成ゴム系のボンドに粘り強さがあるため、結構な回数のダッチングに耐えることが出来ます。 (50回ほど通しましたが、活字部分にズレや磨耗などの変化はありません。) もし、外れてしまっても簡単に貼り直しが効きますので安心です。

(補足) プラリペアですが、ご購入の際は型取りくんと薬剤がセットになったものを購入すると便利です。付属の型取りくんは通常発売品より小さいようですが、活字の型をとるには充分な量です。型をとる際、あまり熱い状態で型をとろうとすると、柔らかすぎで深くめり込みすぎます。また、隣との間隔が狭すぎると、折角とった前の型が崩れて変形してしまいますので、@やや冷えてから型を取る。A隣との間隔を充分空ける。の2つにご留意ください。


◆"メル友"様、画期的な情報を本当にありがとうございました。これからも何卒宜しくお願い致します。

 


※ ダッチングマシンの活字自作につきましては、その後、やはり型取り・成型に樹脂材を使ったオリジナルな方法を"@kimgwa(あっときむぐゎ)"様からもご紹介頂きました。詳しくは氏のHP (http://datingmacine.webcrow.jp/) をご覧下さい。"@kimgwa"様も強く指摘されておられますが、この方法の一番の難所は「数字(活字)片を活字円盤に貼り付ける工程」にあり、極わずかなズレで印字が全く不鮮明になったり、逆に一部分が強く当たって不自然な濃淡が生じるため、特に"高さ"の調整にはかなりの試行錯誤と熟練が必要なようです。また、樹脂の填入方法や接着剤の選定などにも微妙なノウハウが必要とのことでした。その他、調節ネジや"熊手状弾性板"の自作、台湾年号対応用の「年号3桁」活字製作など興味深い内容も掲載されていますので、これからチャレンジしたいとお考えの方は是非参考にされるとよいと思います。

◆"@kimgwa"様、貴重な情報を本当にありがとうございました。これからも何卒宜しくお願い致します。



※4 さらにその後、戦前のダッチングマシンに関する貴重な情報を"S.K"様より頂戴致しました。氏のご厚意によりメールの内容をご紹介します。

1.明治期の"漢字"日付印字について
はっきりした期間は不明ですが、明治中期頃から明治30年代にかけて、官設鉄道ならびに私鉄では「漢字による月と日」を機械によって印字していたようです。現物は東京の「東武博物館」に展示してあるのを確認しております。印字器というよりは小型の印刷機のようなもので、"組み活字"により日付を印字していたようです。当方所蔵の「実地鉄道事務案内」(小園恒二郎著 明治30年発行)にも同様の「日附器械」がイラストで掲載されております。同様の器械は「天理博物館」または「鉄道博物館」にも所蔵されていると思いますが、問合せなどをしたことはありませんので、現存の有無は不明です。月日のみ押印された切符の現物は多数確認しておりますので、まず間違いないところと思います。

※ "S.K"様によると、旧頸城鉄道百間町駅跡にある"頸城鉄道資料館"にも、明治期に多用されていたタイプのダッチングマシンが展示されており、 銘版に「東京市京橋区八丁堀4丁目 荒牧商店製造」とあるのを確認したそうです。"荒牧商店"の名は筆者には全くの初耳で、一応ネット検索も試みましたが、現在は廃業している模様です。何か情報をお持ちの方は是非ご一報下さい。

2.戦前製菅沼ダッチングマシンについて
当方入手の2台につきましてご報告させて頂きます。1台目は製造年月が昭和6年11月で、製造番号は6420となっております。現存する菅沼式では最古の部類になるのではないでしょうか? 菅沼式の製造開始年についてはまだ未解明の部分も多いですが、昭和3,4年あたりまで遡れるかもしれません。ちなみに全高は20.5センチとなっております。もう一台は、残念ながら製造年月ならびに製造番号の刻印が確認できないものです。色は黒ですが、下部プレートの「特許番号」ならびに「実用新案」部分も打刻表示するようなプレートとなっています。戦前製と断定した理由ですが、(1)外観色が黒である、(2)上部プレートに「TOKIO」とある、この2点からです。100%戦前製かどうかはまだ検討の余地あるかもしれませんが、とりあえずは戦前製としておきます。こちらは、全高が前者に比べわずかに短く20センチです。活字は昭和3,40年代対応になっておりますので、オリジナルコンディションというには無理がありますが、それ以外は概ねオリジナル状態と判断しております。



◆"S.K"様、貴重な情報・画像を本当にありがとうございました。


 ※ 菅沼式乗車券日附器の製造開始時期について
 上記"S.K"様所有の最も初期型と思われるダッチングマシンに刻印されている特許番号「70229」は、特許庁の電子検索によると、大正14年11月24日に出願され、大正15年12月22日に特許が下りた「太鼓胴型活字面ヲ有セル揺動式印刷機」に拠るもので、どうやらこれが"菅沼式"の出発点と考えてよさそうです。もちろん、「菅沼研究所」がそれ以前より同様の製品を製造販売していた可能性もありますが、それでも最早「大正末期」という線は動かし難く、また大正天皇は特許が下りた3日後(12月25日)には崩御されて、昭和元年が1週間しかなかったことを考慮すると、"S.K"様ご指摘の通り、ほぼ昭和初年頃から"菅沼式"の本格的製造が開始されたものと考えて間違いないと思われます。これで、ダッチングマシンに関する謎の大半が解明されたことになり、筆者の長年の胸のつかえが取れた感じが致します。川崎様、加田様、"S.K"様、初沢様を始め、貴重な情報を提供して頂いた多くの方々に、改めまして心より感謝申し上げます。今後も新情報をお待ちしております。

※ その後、加田芳英様から「鉄道年表 九州の鉄道80年記念」(門司鉄道管理局/昭和44年10月発行)という資料の中に、"大正15年4月1日より"門鉄管内の一部の駅で「菅沼式乗車券日付器を使用開始」という記事が掲載されていることを教えて頂きました。この日付はちょうど上記特許の出願中の時期に当たり、推測より少し早く本格的製造が開始されていたことを示すものと思われます。なお、一部の駅とは門司(現・門司港)・小倉・折尾・博多・久留米・大牟田・上熊本・熊本・鹿児島・佐賀・長崎・佐世保・中津・別府・大分・直方の16駅で、その他の駅に関してはどのような方法(器械)が採られていたのか依然として謎のままです。



※5 さらにその後、ダッチングマシンの2大メーカーである"菅沼タイプライター"と"天虎工業"の業務提携を窺わせる非常に貴重なモデルの発見がありました。情報を頂戴した"Railmechanos"様のご厚意により、画像を掲載させて頂くことができましたので、ここにご紹介致します。
 このモデル(下)は、刻印から昭和43年に天虎工業が製造したものであることがわかりますが、"天虎式"の特徴である乗車券押さえメカニズム(円形ローラー型の"F押圧台")を除くと、各部品の形状や塗装仕様が末期の"菅沼式"とよく似ています。(外観上部の丸みや活字の書体、"Oベルクランク型インキ皿"の形状など) 加えて"Railmechanos"様は前蓋下部にある製造番号の刻印に注目されておられます。

@ この製品の製造番号「81219」(昭和43年製)が、加田芳英様ご提供(画像)の"菅沼式"末期のモデル(上記F)の製造番号「83017」(昭和45年製)と年代的に合致しており、"菅沼式"の"通し番号"と考えても矛盾がないこと。
A 筆者所有の"天虎式"(昭和49年製)の製造番号が「19099」であること。筆者所有のモデルは"TA−1型"と銘打たれていますので、製品ごとに新たに製造番号を付け直した(「1」から再スタートした)可能性はありますが、昭和43年時点で「81219」という"オリジナル番号"はやはり大き過ぎるように思われます。

 以上のような点から、"Railmechanos"様は「このモデルが"菅沼式"と"天虎式"を繋ぐ"ミッシングリンク"あるいは合作ともいえる製品であり、昭和40年代初頭から両社のOEM(技術協力・生産委託)関係があったのでは」と推測されており、筆者も"Railmechanos"様のご意見に賛成です。
 ちなみに、この個体は信州方面で活躍したもので、なんと「ヨ」活字も付属しているとのことでした。("Railmechanos"様のブログ「レールメカの巣」をご参照下さい。したがって、当ページの『"天虎式"のマシンには「ヨ」の活字はない。』という1文は訂正致します。) また、"天虎工業"の創立が昭和41年であることははっきりしており、加えて「翌日扱いの乗車券類に対する日付の表示方」規程が昭和25〜40年の間だけ施行されたことを考えますと、"天虎工業製ダッチングマシン"(OEMを含む)の出現時期は昭和41年頃と断定してよさそうです。

※ その後、"Railmechanos"様より再度メールを頂戴し、上記のマシンよりさらに"菅沼式"に類似した"天虎式"が存在することを教えて頂きました。"Railmechanos"様が新たに発見されたこのモデルは、同じ昭和43年製ですが製造番号が若干若く(「80869」)、乗車券押さえ(F押圧台)がロール型ではなく菅沼式に特徴的な"揺動式"となっており、まさに「菅沼式末期のモデルに天虎の前面板を取り付けたような構造」になっています。この発見により、氏の推測通り「菅沼から天虎へダッチングマシンの事業譲渡が行われた」可能性がさらに高まりました。


◆"Railmechanos"様、度々貴重な情報・画像を本当にありがとうございました。


★ その後、なんと上記のマシン(製造番号「80869」)の現・所有者であられる"ツムダフ"様からご連絡を頂きました。この場をお借りし、改めて深く御礼申し上げますと共に、氏のご厚意によりメールの内容と画像(下)を掲載させて頂きます。
Railmechanos様からご紹介いただいている製造番号80689の天虎製ダッチングマシンですが、縁あって現在は私が所有しています。プレートには43年製A型と製造番号の表記があり、台座の裏側には52.7.2というシールと共にマジックで西武と書かれています。恐らく、西武鉄道池袋駅西武口で使われていたものと推測されます。既に解説されていることを含め、Railmechanos様所有の81219号器と比べると
 ・菅沼ダッチングマシン特有の揺動式であること
 ・ヨ活字が無いこと
 ・活字も天虎体であること
があげられ、菅沼末期のような天虎でもいくつか種類があったことが窺えます。現在、年代桁を20年対応した文字環に移植していますが、オリジナルの文字環の10年代桁は4・4・4・4・4・6・×・×・×・5(既に剥れており、跡のみ)でした。

◆"ツムダフ"様、貴重な情報・画像を本当にありがとうございました。



※6 さらにその後、"古部 遥"様よりメールを頂戴し、"菅沼式"が"会津鉄道会津高原尾瀬口駅"で今も現役であることを教えて頂きました。(画像転載の許可も頂きました(下)。詳しくは氏のブログ「厚紙散歩」をご覧下さい。) このダッチングマシンは昭和42年の製造とみられ、明らかに"菅沼式"後期のものですが、最晩年の様式(上記"日付印字器"ギャラリーのF)と比べてみると、@前面上蓋に「Suganuma」のアルファベット表記がない A前面下蓋の製造年表記が元号式(A型?) B「菅沼タイプライター株式会社」("製造"がない。この直後に社名変更か?) などの違いがあり、表記(刻印)に関しては前期モデルとの中間的様式であることがわかります。また、製造番号「74841」は上記"Rail Mechanos"様ご所蔵の"天虎式"「81219」(昭和43年製)や加田芳英様ご所蔵の上記ギャラリーF「83017」(昭和45年製)と年代的に矛盾していません。
 前述の通り、"菅沼式"では標準装備で発行"年"の十の位に「1」や「2」の活字がある個体がほとんど存在しないため、そのまま現役で使用することは困難な状況ですが、最近は活字円盤の交換修理を請け負う業者もあるようなので、このマシンも恐らくは暫く"お蔵入り"になっていた古い中古品を極最近になって改造修理したものと考えられます。("古部 遥"様によると、この活字円盤は"樹脂製"のように見えたとのことでした。書体も総じてむしろ"天虎式"に近いように感じられます。) いずれにしましても、今でも"菅沼式"が現役で使われていることは大変な驚きでした。


◆"古部 遥"様、貴重な情報・画像を本当にありがとうございました。



※7 一見矛盾がないように見受けられましたダッチングマシンの「製造番号一貫説」ですが、その後"@kimgwa"様より再度ご連絡を頂き、下のように製造年と製造番号が矛盾する例 (いずれも末期の「菅沼式」)を紹介して頂きました。昭和39年8月製の「79176」は「MODEL A」、昭和40年1月製の「71835」は「MODEL B」だそうですが、明らかに製造番号が逆転しており、菅沼本社の所在地が表記されているほうが古いのは間違いないため、この点については問題ないものの、前者の「79176」はちょっと番号が大き過ぎる印象を受けます。機種の違い(MODEL A/B)によるものとも考えられますが、筆者にはこの時期のこのタイプ(緑塗装)の「菅沼式」のサンプルデータが他になく、比較検討ができないため結論が出せずにおります。もし、昭和39〜40年製造の「菅沼式」をお持ちの方がおられましたら、是非ご連絡頂けたら幸いです。また、筆者は「菅沼式」の「MODEL A/B」の違いを「『ヨ』活字の有無では?」と推理しましたが、"@kimgwa"様を含め数人の方々から「『MODEL B』でも『ヨ』がない」(あるいはその逆)旨のご報告を頂いており、どうもこの辺りも怪しくなって参りました。ご意見をお待ちしております。


※ また、"@kimgwa"様が所有されている末期の「菅沼式」(昭和41年製造)を分解清掃したところ、文字輪(活字円盤)はやはり白い樹脂製で、上記"古部 遥"様ご指摘の交換修理品(?)とよく似たものであることがわかったそうです(左)。しかも、発行"年"の十の位の活字が「4・4・4・4・4・X・X・X・X・X」となっていることから、交換修理ならば昭和40年代に行われた可能性が高く、あるいはこれが「(実は)オリジナル」であるという可能性も否定できなくなりました([補 足]※1 1."菅沼式印字器"について を参照)。しかし、"@kimgwa"様によると、文字輪の形状(活字の断面やギア部分の形)並びに活字体はやはり「天虎式」に酷似しており、かなり磨耗が著しいものもあって、耐久性には疑問があるとのことでした。


◆"@kimgwa"様、今回も貴重な情報を本当にありがとうございました。これからも何卒宜しくお願い致します。