(特別企画)【模擬硬券を作る】


1."模擬硬券"について

 ここでいう"模擬硬券"とは、"縁起担ぎのお土産品"や"記念品"及び"コレクターの参考品"として特別に作られた硬券の模造きっぷを指す。展示会や催し物の入場券など何らかの付加価値を付けて発行されることも確かにあるが、多くの場合は観賞用・保存用に作製されるものであるから、「券そのものにはほとんど金銭的価値はない」という点が"真券"(本物)との大きな違いである。(したがって、実際に使用可能な記念入場券・記念乗車券の類はこの範疇に入らない。) 昔は真券と同様に活版印刷を主体とする方法で作製するしかなかったので、記念品の類は別としても"真券とそっくりに作る"ことはそれほど容易ではなかったが、近年はコンピューターや印刷技術の急激な進歩により、プロはもとよりパソコンと家庭用プリンタしか持たない個人が相当ハイレベルな模擬券を作製できる環境が整ってきた。このページでは、一般的な硬券製造の現場を紹介すると共に、活字に依らずにどこまで真券に近づけられるか、趣味としての模擬硬券作りにもチャレンジしてみたいと思う。


2.硬券(真券)製造の実際

 全国に8つもあった国鉄(JR)の印刷場(乗車券管理センター)は既に全廃されて久しく、現在、"本物"の硬券製造の現場を見ることは非常に難しくなっている。しかし、地方の中小私鉄の一部では今も硬券が日常的に使用されており、わずかに残っている"乗車券専門印刷会社"を中心に、細々とではあるが硬券の印刷・製造は続けられている。但し、最近の印刷現場では高性能の機械やコンピューターの導入が著しく進んでいるので、ここに挙げているような"伝統的な方法"は段々と過去のものになりつつあるのは間違いない。以下、主として国鉄印刷場における硬券の製造手順について簡単に紹介しておく。

(1) 地紋様を印刷する

 製紙会社から送られてくる硬券の原紙(板紙)サイズはA・B・C型が 400 X 535 *1)mm、D型が 400 X 550 mm、厚さが約 0.6 〜 0.7 mm の特注上質紙(「旅客営業規則取扱基準規程」第179条によると「11号以上の厚紙」)で、まず最初に、この板紙全体に地紋様(正確には「字模様」)を印刷する。国鉄券の場合、硬券に使用されるのは「一般用」と呼ばれる「こくてつ/JNR」と機関車の動輪をデザインした地紋様で、原版(活版)は大蔵省(現・財務省)造幣局が製造し、かつては1日の作業終了毎に所定の金庫へ厳重に保管されていたという。やや遅れて、昭和42年頃からは「特殊用」と呼ばれる自動券売機や印刷発行機(軟券)などの"外注用"地紋様も出現するが、その背景には「大切な"一般用"原版を外部に持ち出したくない」という配慮があったと言われている。しかし、現在では写真製版の技術が非常に進歩しているので、"透かし"もないこの程度の地紋様を精密に複写することは造作もなく、その気になればコンピューター制御の精密機械を使って活版自体をコピーすることも十分可能ではないかと思われる。また、国鉄券の印刷に使用されるインクも特注品で、「インク消しを使うと地紋様まで消えてしまう」工夫がなされていた。今までに淡赤色・淡紫青色・淡緑色・淡黄色・淡褐色の5色が知られているが、淡黄色は旧1等券廃止と共に消滅し、淡褐色は"閑散期割引"の指定券類など特殊な用途に限られており、日常よく見掛けたのは前3者の地色である。
 なお、私鉄の場合も、かつては国鉄の製法に倣ったものと思われるが、今もすべての会社で凸版機を使って地紋様を印刷しているのかどうかはよくわからない。以前は鉄道会社毎に社章や社名をあしらった独自の地紋様も多かったが、近年は"民鉄協会などの共通地紋"(「JPR/てつどう」「HPR/してつ」「TTD/てつどう/TETUDO」など)に換えた例が多いという。また、昔は国鉄の印刷場に印刷製造を委託した例もあり、稀に「こくてつ/JNR」地紋の古い私鉄券(下)を見掛けるのはそのためである。

注)*1 "四ツ切(四六判)"サイズで"394 X 545 mm"とする資料もある(天理参考館「キップの世界」)。


(2) 板紙を裁断する

 次に、板紙を各乗車券類のサイズに裁断する。まず、板紙の長辺をA・B・C型用ならば約 57.5 mm 毎に9つ、D型用ならば約 88 mm 毎に6つ(?未確認)に切断して細長い板状にする。これを"大裁(おおだち)"という。(「9等分」「6等分」と書かないのは、板紙の左右1cm程度を切り捨てるためで、これは恐らく地紋様の印刷不良が生じやすい両端を取り除くと共に券紙の横サイズを正確に揃えるための工夫と思われる。) "大裁機"はこの工程のためだけに独立して存在しており、機械自体はモーターで駆動するが、給紙は"手差し"で行うため、刃を傷めないようスムースに裁断するには熟練を要するとのことであった。
 次に、大裁した板紙を束ねて"小裁機"のほうへ今度は90度回転して横向きにセットし、1枚ずつ一気に各硬券の縦サイズ幅に切り分ける。これを"小裁(こだち)"という。1回の小裁でA・D券ならば13枚、B券ならば15枚、C券ならば6枚(?未確認)を同時に断裁できるが、板紙のサイズ 400 mm を13等分すると約 30.8 mm、15等分すると約 26.7 mm、6等分すると約 66.7 mm となり、「旅規」の規定よりかなり大きくなるのは、やはり小裁の際に板紙の片端(?)を一部分切り捨てるためである。とりわけC券は、この小裁によるロス(無駄に廃棄される部分)が非常に大きいことが後々廃止となる一因になったと言われている。("裁断ミス"も多かったという。) また、B券は、券紙を節約するために昭和3年頃に当時の有楽町印刷場(後の東京印刷場)で初めて採用された規格で、わが国以外ではほとんど見掛けることはない。(昭和15年鉄道省製作の「乗車券」という記録映画を見ると、小裁機が約0.5秒に1回のハイスピードで次々と15枚のB券を排出するシーンが撮影されている。)
 なお、「旅客営業規則」第189条の規定では、A型が 5.75 X 3 cm、B型が 5.75 X 2.5 cm、C型が 5.75 X 6 cm、D型が 8.8 X 3 *2)cm (但し、昭和36年頃以前は"3"が"3.03"、"6"が"6.06")となっているが、筆者のコレクションで実際に国鉄(JR)券を計測してみると、縦サイズはかなり正確でも、横サイズのほうはどういうわけか 0.5 mm 近くもオーバーしているものが少なくない。(エドモンソンの規格が日本に入ってきた際の"inch -> cm 換算に因る誤差の名残り"ではないかとも思ったが、1 inch は 2.54 cm なので、例えばエドモンソン規格のA券横サイズ"2 + 1/4"inch は 5.715 cm となり、むしろ短くなければならず辻褄が合わない。) また、私鉄券の場合も概ね同様の傾向はあるが、稀に横サイズが 0.5 mm どころではなく異常に長いものも見受けられる(下)。こうした券は裏面の"券番"が通常のものではない"半硬券"に多く、乗車券専門の印刷会社で調製されたものではない可能性が高い。
 最後に、大裁・小裁が終了した乗車券類の原紙を肉眼で念入りに点検する。地紋様が正しい地色で鮮明に印刷されているか、裁断不良の券が含まれていないかなどが主なチェック項目になると思われる。

注)*2 「近藤書」ではなぜか"3 X 8.7 cm"(P.34)となっている。コレクションを多数実測したが、やはり長辺は"8.8 cm"で間違いないと思われる。


: 北丹鉄道河守駅発行の国鉄連絡準片(廃札券)
   ("準D型" 10.0 X 3.0 cm)

※ 半硬券に近く、D型より 10mm 以上も長辺が長い。


: 標茶町営軌道運行事務所発行の片乗
   ("準B型" 6.2 X 2.5 cm)

※ 立派な硬券なのに"券番"がない。


: 八方尾根開発発行のスキーリフト片道券
   ("準B型" 6.1 X 2.5 cm)

※ 半硬券で、入鋏までされているのにダッチングがない。


: 秋田内陸縦貫鉄道角館駅発行の硬入
   ("準B型" 6.1 X 2.5 cm)

※ 見た目は国鉄券に似ているが、ペラペラの半硬券。

(3) 券面を印刷する

 点検が終了した原紙を束ねて"乗車券印刷機"にセットし、1枚ずつ券面に必要事項を印刷していく。乗車券印刷機は原則としてA・B・C・D型それぞれの専用機が必要だが、中には部品を交換することによりA・B両方に対応できるように改造されたものもあった。また、「近藤書」によるとC型用の印刷機はすべて戦前製で、C券の廃止により次々に廃棄されてゆく中、昭和の末期までなんとか運転可能な状態にあったのは東京乗車券管理センターの1台だけだったという。いずれも東京の"国友鉄工所"製がシェアの大半を占めていた模様だが、硬券の発行が下り坂になった昭和50年代頃には早くも製造が中止された模様。
 所定のサイズに裁断された原紙を乗車券印刷機の右側にある"送り筒"に重ねてセットした後、機械を始動すると1枚ずつ"玉突き状"に中央の印刷コーナーへ原紙が送られる構造になっており、ほぼ同時に鉛の活字が組み込まれた金枠を上下からプレスすることにより印刷が行われる。インクは印刷機の動きに合わせ、背後にある容器からローラーを使って自動的に供給される仕組みになっている。印刷は、@裏面の券番 A裏面の発行駅名・注意事項など B表面 の順に高速で行われ、最後に乙片の綴じ穴まで穿孔して、左側にある"上げ筒"に送られる。1分間の印刷能力は最大350枚程度、電子制御装置が組み込まれた末期のモデルでは"包装"まで自動で行うもの、"送り筒"に原紙がなくなると自動的に機械が停止するものまであったという。なお、普通入場券の"赤線"や「小」「職」などの"影文字"、昔の急行券に見られた"赤斜条・赤縦条"などは、地紋様を印刷した後、裁断される前に加刷されるのが普通だが、東京・門司印刷場だけは"赤縦条"もこのステップで印刷されたことが知られている。
 最後に、小面印刷が終了した乗車券類を再び肉眼で念入りに検査する。印字が鮮明に行われているか、誤植はないかなどが主なチェック項目になると思われるが、実際には"笑ってしまうようなミス券"が堂々とパスしてしまうケースも多く、珍しいものはマニアの間でもかなり高額で取引されている。


: 「[九]佐賀関から大分ゆき」B型硬乗の活字組版(九州鉄道記念館蔵)

※ "活字組み"は比較的単純なものでも、多数の小さな活字や込め物を1つ1つ微妙に組み合わせなければならず、かなりの熟練を要するという。


: 券番だけが印刷された状態のB型入場券用原紙(門司乗車券管理センター製)

※ 板紙はたぶん"大昭和製紙"製で、時代により"精白度"に微妙な差がある。


※ [国鉄門司印刷場について]

 "門司印刷場"(昭和58年4月より"門司乗車券管理センター"に改称)は、門鉄局や九州総局(JR九州本社)が置かれた門司港駅周辺の官庁街からは少し離れた葛葉貨物駅(廃)寄りの海岸端にあった。すぐ道路に面した平屋建て(?)の極普通の建物で、周囲には人家も少なく(当時)、「本当にこんな所で九州地区すべての硬券を製造できるのか?」と心配になるほど、ひっそりとした佇まいだった。
 筆者が平成元年12月に「開設100周年記念」見学会で訪れた際は、まだ上記のような裁断機や印刷機は健在だったが、既に「老朽化がかなり進んでおり、運転できなくなるのは時間の問題」とのことであった。JR九州が硬券を廃止したのは、その6年後(平成7年6月30日)のことである。自動券売機や印刷発行機の普及、中小駅の大量無人化などにより確かに硬券の需要は激減したが、それ以上に印刷機械の老朽化がJRの早過ぎる(?)硬券廃止を後押ししたことは否めない。ちなみに、門司印刷場では昭和54年2月から"冊物(車補)"を先駆とする乗車券類の外部発注が始まり、昭和57年4月からは軟券の全てが外託の対象となって、晩年は需要が少なくなった硬券と代わりに急増した"オレカ"の印刷・製作業務だけになったという。現在、これらの機械類の所在は不明だが、「廃棄するのにもかなりの費用が掛かるので、博物館などに寄贈することも検討中」という当時の助役氏の話もあり、備品の一部はセンター跡地に建設された「九州鉄道記念館」に展示されているものの、機械の一部はどこかでひっそりと「動態保存」されているのではないかと、筆者は密かに期待している。


3.模擬硬券の作例

(1) 鉄道会社が作製した模擬硬券

 昔は鉄道会社が直接旅客営業に関係のない"きっぷ"の類を作製することはほとんど稀であったが、近年は鉄道ファンの増加と経営の悪化に伴い、路線廃止や開業記念などにおける増収対策の一環としていわゆる"模擬券"を作製する場合があり、国鉄(JR)においても例外ではない。どこからを"模擬券"とするかは非常に微妙なところだが、1.で述べたように実際に乗車券類として使用可能なものは、ここでは採り上げないことにする。したがって、記念入場券・記念乗車券類を除くA・B・C・D型で作製された硬券が対象となるが、"乗車証明書"や"見学証明書"(D券が多い)など発行枚数は結構多くても、種類としてはそれほど多くはない。


: 門司乗車券管理センターが「開設100周年記念」で作製した模擬硬券@

※ 鉄道草創期(明治5年頃)の2等片乗を模したものだが、明らかに活版から復刻したものではなく写真製版によるコピー。紙質は当時より格段によいはずなので、本物よりむしろ上出来?


: 門司乗車券管理センターが「開設100周年記念」で作製した模擬硬券A

※ 鉄道省初期(大正9年頃)の2等片乗を模したもので、やはり両面共に写真製版によるコピー。表面にやや光沢があり、地紋も不鮮明で出来はよくない。


: 門司乗車券管理センターが「開設100周年記念」で作製した模擬硬券B

※ 国鉄初期(昭和27年頃)の3等片乗を復刻したもので、表面の地紋と裏面の券番は活版による本物に見える。旧字体の古い活字が廃棄されずに残っていた可能性も高いが、ところどころ印字が不鮮明なのが気になる。また、国鉄"一般用"地紋の原版がこの時期(平成元年)にまだセンターに保管されていたかどうかも微妙なところだ。


: 九州鉄道記念館オープン3周年記念「硬券復刻版」入場券

※ 一応"入場券"として発売されたものなので模擬券ではないが、2等時代の貴重な赤縦条入り特別急行券をそのまま写しているので紹介しておく。やはり廃札券を写真製版の技術でボール紙にコピーしたものらしいが、表面の光沢が強く、よく見ると実券とはかなり隔たりがある。裏面は解説と注意書きのみ。ちなみに、「九州鉄道記念館」(平成15年開館)はJR九州の所有物だが、企画運営は北九州市出資の「レストパーク門司港」が行っている。

(2) 一般企業が作製した模擬硬券

 主に"縁起担ぎのお土産品"や"記念品"として乗車券類を模して作製されるもので、無料で配布されることも多いが、堂々と販売されているものもある。代表的な例は、国鉄広尾線(昭和62年廃止)の「愛国から幸福ゆき」の片乗や幸福駅の硬入(準B型)で、これらの中にはもちろん"国鉄札幌印刷場調製の本物"もたくさんあるが、"パチ物"もかなり出回って一時期話題になった。愛好家でなければニセ物と見分けられない"出来栄え"のものも多く、厳密には法に触れる可能性が高いが、幸福駅や愛国駅周辺の土産物店などで極普通に売られていたという。また、最近では「道の駅」の"入場券"(準D型)も有名だが、もともと駐車料金も館内入場も無料の施設なので、これらは"有償の来場記念券"というほうが正確であろう。(その後、案の定"記念きっぷ"に改称されている。) その他、自社の宣伝広告のために乗車券類を模した硬券様の紙片を作製して顧客に配布する例なども知られているが、これも一種の模擬券と見てよい。


: 幸福駅の準B型硬券入場券(土産品・製作元不明)

※ 製作者が異なる数種類の券が知られており、"素人目"には本物に見えるが、幸福駅は開業時から無人なので最初から"本物は存在しない"。詳しくは【切符蒐集を考える(その2)】(["硬券入場券"の贋作について])を参照の事。


: 道の駅「あさじ」の準D型"記念きっぷ"(土産品・製作元不明)

※ 地紋様入りの割合しっかりとした硬券だが、最初から置いていない所や発売中止になったケースも多く、コレクターズアイテムとして永く定着するかどうかは微妙。"小児断線"様の斜線(右)は全くの"お飾り"。日付印字は専用の特殊機械で行われる。

(3) 乗車券愛好家が作製した模擬硬券

 乗車券愛好者団体や愛好家個人が趣味の一環として作製するもので、色々な鉄道趣味関係の催し物の入場証や記念品あるいは"名刺代わり"として配られるほか、近年はコレクターでもある"乗車券業者"などが「入手困難な硬入の代用品」として作製・販売したものなどがある。(2)と大きく異なるのは、細部に"マニアらしいこだわり"を持って作製するケースが多いため、地紋様や活字配置、"注意書き"や"朱帯"など本物そっくりの凝ったものが多い。但し、活版を使った本格的なものは乗車券専門の印刷会社などに発注するほかないので、かなりの費用が掛かるのはやむを得ない。最近は平板(オフセット)印刷で作製されたものが増えているが、文字や線がきれい過ぎて乗車券本来の"滋味"がないという。また、現在はパソコンの性能のみならず、比較的安価な家庭用プリンタの印刷解像度が飛躍的に向上しているため、"遠目で眺めて楽しむ"くらいならば十分鑑賞に堪える模擬硬券を完全に個人の力で作製することも可能になってきている(4.参照)。





: (上)"天理参考館"作製の「模擬きっぷ見本帳」より抜粋したB型模擬硬券の数々

※ スペースの関係で一部のみ、許可を得て掲載。鉄道省「GJR連続模様」を模倣したオリジナルの「てんりさんこうかん/TUSM」地紋と、国鉄「こくてつJNR模様」を模したオリジナル「てんり/参考館/動輪マーク」地紋があり、各細部に至るまで本物そっくりに作製されている。

◆ "天理参考館"様、ご協力本当にありがとうございました。


4.模擬硬券を自作する

 筆者の乗車券蒐集歴は30年にも満たないため、昭和50年以前の貴重で高価な乗車券類を蒐集することは既に並大抵のことではなかった。過去の色々な文献やオークション誌を眺めていると「せめてこの券のコピーだけでも手に入らないか」と思うことはしばしばあり、知人に無理を言って実際にコレクションのカラーコピーを送って頂いたこともあった。また、最初の頃はカタログ写真などをパソコンにスキャナで取り込み、画像ソフトを使って"実寸大"に拡大したり、彩色補正したりしてコピー紙に出力し、専用のストックに収めて鑑賞・研究用としていたが、次第に、実券さながらの"厚紙"を使って、なんとかコピー品を作製できないかと考えるようになった。その後、実際に試作を重ねて、現在ではどのような券でも、かなり精巧なものを作製できるようになったと自負している(下)。しかし、下記の問題があって、HP上で採り上げることには永らくためらっていたが、最近メールを頂いて、同じように硬券作りにチャレンジされている方がおられることを知り、ここに敢えて筆者の方法を紹介してみることにした。ご意見・ご感想を頂ければ幸いである。



[ご了解とご注意]

 "真券"を真似た模擬券を作製する場合に問題となるのは、きっぷの"有価証券"としての側面です。有価証券の偽造は、刑法第162条で"三月以上十年以下の懲役"と定められている犯罪行為ですから、このページを見て「例え趣味であってもそのまま真券として流通してしまう可能性があるもの」を作製することは絶対に止めて下さい。筆者の場合は、下記の点に十分留意して「あくまで個人的に眺めて楽しむもの」をコンセプトに模擬硬券を作製しているだけですので、読者の方がここで紹介されている方法を使って模擬券を作製した結果生じる、いかなる不利益についても筆者は一切責任を負えません。また、筆者はコレクターズアイテムとしての古い乗車券類の贋作造りを奨励するつもりも全くありません。"きっぷ"にかかわらず、蒐集の世界では贋作は付き物ですし、現に詐欺目的でそのようなものを作製する人がいるのも確かですが、あらかじめご了解下さい。

@ 実在する鉄道会社の現行の乗車券類の模擬券は作製しない。
 既に硬券を廃止した鉄道会社の場合でも、同じ地紋様を模造し、現に存在する駅や現行の運賃体系及び営業規則に則って、そのまま真券として使用されてしまう可能性があるものは、例え鑑賞が目的であっても作製できません。
A 現存する鉄道会社の模擬券を作製する場合は、既に乗車路線(発着駅)が廃止されていたり、地紋様や運賃体系または乗車券の様式等が大きく変更されていて、「ひと目で乗車(換金)使用が不可能であることがわかるもののみ」を対象とする。
 このケースが最も気になるところですが、上記はあくまで個人的な見解ですので、作製した券を第三者に配布したり、HPで公開したりすることはお奨めしません。
B 既に廃止されている鉄道会社の模擬券作製は一応問題ないとする。
 但し、作製した精巧な模擬券を真券として販売したり、ネットオークションに出品したりする行為は当然違法(詐欺罪)です。絶対に止めて下さい。


(1) 地紋様を作成する

 まず模擬券の表面を作成するに当たって、実券と同様、最初に地紋様(パソコン上の画像ファイル形式)を作成する。地紋様を作るには、大きく分けて @実券を利用する方法 と A完全に一から自作する方法 が考えられる。
 @の場合は、初めに実券をスキャナなどでパソコン上に取り込み、"レイヤー機能"のある画像ソフトを使って「印字部分を除いて地紋が鮮明に印刷されている範囲」を"切り取る"。幸い、地紋様の多くは"小さい紋様が無限に反復するパターン"が多いので、1つの"反復単位"だけでもきれいに切り取ることができれば、後はこれに"オリジナルの修正"を加えたうえで別のレイヤー上に複数コピーし、たくさんのレイヤー同志を上手に合成してゆくことにより、D型でもA4でも任意のサイズの地紋様を作ることができる。この方法の利点はなんといっても(比較的?)簡便なことだが、反面、古い券では地紋が不鮮明だったり変色やシミがひどくてパターンを採取できないケースがあること、色々な要因により採取したパターンに微妙な変形があって合成の際に辺縁部分に微妙な"ずれ"を生じる場合があること、その他、地紋色の変換(後述)や調整が難しい、どうしても完全自作のものに比べて印刷物のシャープネスが劣る、といった欠点がある。また、拡大縮小機能のあるカラーコピー機を使えば、パソコンを一切使わずに地紋様を作成することも可能だが、色々な理由から、このページでは@の方法は採用しない。
 Aの場合は、パソコン特に"Photoshop"(Adobe社の高機能な有料定番ソフト)や"GIMP"(ネット上などから無料で入手できる高機能なフリーウェア)などの"レイヤー機能"のある画像ソフトの扱いに、ある程度習熟している必要がある。パソコン初心者には実際、これが一番のネックであり、以下筆者が何を言っているのか理解できない方も多いかもしれないが、ページの関係上細かい操作方法まで逐一説明することは不可能なので、"ある程度パソコンを操作できる"という前提の下で話を進める。(メールを頂ければ、筆者のできる範囲でフォロー致します。)

★ ここでは「下毛交通・宇佐参宮線(しもげこうつう・うささんぐうせん)」という昭和30年代の架空の鉄道を想定し、鉄道省時代の「GJR/てつだうしやう」地紋を模倣したオリジナルの「TT/てつだう」地紋を作成する。(本当は、国鉄の「一般用」地紋が筆者の"お気に入り"で、同じ方法を使って似たようなものを作成することもできるのだが、ステップがかなり複雑になるので今回は採用しない。) パターン作成には"Adobe Photoshop"(アドビシステムズ)を使った。

1) "ファイル"->"新規"から新しいレイヤー(背景色は白)を起こし、右のような二重円を描く。今回の地色は"淡青色"としたが、後で簡単に色変換・微調整が可能なので適当で構わない。また、実際に印刷される円のパターン直径はせいぜい5mm程度なので、印刷解像度を"300 pixels/inch(dpi)"としてもモニター上における円の直径は"60"ピクセルあれば十分だが、それではあまりに小さ過ぎて作業しにくいので、とりあえず数倍に拡大してパターンを作成し、最後に縮小するほうがよい。(右の例ではわかりやすいように"10倍"に拡大して作業したが、神経質に作り込んでも実際にはかなり"端折られてしまう"ので、"2〜3倍"(直径 120 〜 180 ピクセル)程度でも十分と思われる。)

2) "選択範囲"->"すべてを選択"の後、二重円を丸ごと"編集"->"コピー"して、"レイヤー"->"新規レイヤー"からもう1つ別のレイヤーを作成し、そこに二重円を貼り付ける("編集"->"ペースト")。さらに、2つの二重円が右のように重なるよう"移動ツール"でレイヤーを移動し、不要部分を"消しゴム"ツールで消去して"無限大"記号様の図形を作る。

3) "文字ツール"を使って右のように「てつだう」を書き込む。サイズやフォントは適宜選択し、1文字ずつ書いては"編集"->"自由変形"などから文字を回転して円の曲面に合わせるほうが作業しやすい。(今回は「◇」も文字ツールの記号(シフトJIS: 0x819e)を使った。) さらに、レールをデザインした中央の「TT」記号は、やはり新規レイヤーを作成して"矩形選択ツール"と"塗りつぶしツール"で大まかに描画した後、"角"の部分などを"ブラシツール"で微調整して仕上げる。しかし、前述のように実際にはかなり縮小して印刷されるので、あまり細かいところに気を配っても意味はない。また、この「TT」のように"線太"のパーツは、そのまま印刷すると、この部分だけコントラストが突出してしまう("浮き上がって見える")ので、レイヤーの"不透明度"を薄く(60%程度に)調整したほうがよい。最後にすべてのレイヤーを"統合"して、パターンを一旦"BMP"や"TIFF"などの画像ファイルに変換・保存しておく。(オリジナルの"PSD"ファイルも、後日の修正のために保存しておいたほうが無難。)

4) "ファイル"->"新規"から「幅:8.84cm / 高さ:3.02cm / 解像度:300pixels/inch / 画像モード:RGBカラー」の設定で、とりあえず"白"一色の画像を作成する。(これは"D型"に相当するが、A型・B型の場合はこれより小さいので、完成した地紋様の上下左右をカットすればよい。) 次に、3)で作成した基本パターンを"ファイル"->"開く"から再び Photoshop に読み込み、"自動選択ツール"(右)で"青い部分"(どこでも可)をマウスでクリックし、「白い背景を除く純粋なパターン部分だけ」を選択して、クリップボードに"編集"->"コピー"する。(選択がうまくいかない場合は、"自動選択ツールオプション"の"選択する色の範囲"(数値)を変えてみる。)

5) 再び4)で作成したD型の原型画像に戻り、白キャンバス上で"編集"->"ペースト"して、クリップボードにコピーされている基本パターンをとりあえず貼り付ける。(基本パターンは10倍サイズなので、ペースト時はウィンドウからはみ出てしまうこともあるが無視してよい。) 次に、貼り付けられた基本パターンのレイヤーを"アクティブ"(右)にし、"編集"->"変形"->"数値入力"->"拡大・縮小"で"幅"・"高さ"を(このケースでは)それぞれ10%に変更する。これで基本パターンの1つは完成したので、後は"レイヤー"->"レイヤーを複製"して横にどんどん連結し、"1行"を完成したら"下のレイヤーと結合"などを使って1行分のレイヤーを丸ごと一旦結合する。最後に、これをさらに6つ複製して(計7行)、各行をきれいに並べ、"レイヤー"->"画像を統合"すれば完成。
 出来上がった地紋様の画像は、"BMP"や"TIFF"または"JPEG"形式で大切に保存しておく。

6) なお、一旦完成した地紋様の"地色"を変えたり色調の微調整をしたい場合は、Photoshop ならば"イメージ"->"色調補正"の各ツールを使えばよい。色々な方法が考えられるが、筆者の経験では、普通に"選択範囲"->"すべてを選択"して、"カラーバランス"や"明るさ・コントラスト""色相・彩度"などのパラメータを適当に調整するだけでも、まあまあ満足のいく結果が得られる。但し、あまりに調整を重ねるとパターンの輪郭が崩れたり、"線太"になってコントラストが異常に強くなることもあるので要注意。実際に地紋だけ印刷してみて、あまりに色濃度が高くなる("見た目がきつい")場合は、"色相・彩度"->"明度"を少し上げてみることをお奨めする。また、逆に全体が"ボヤけた"感じになる場合は、"フィルタ"->"シャープ"を1回だけ掛けてみるのもよい。

★ 筆者が作成した上記のオリジナル地紋様は公開致します。自由にダウンロードしてご使用下さい。(右クリックのポップアップメニューから"対象をファイルに保存"または"名前を付けてリンク先を保存")

「TT/てつだう」D型青地紋 (647KB)
「TT/てつだう」D型赤地紋 (660KB)


(2) 表面の印字部分を作成する

 次に、券表面の"表示事項"(通用区間・通用期間・運賃・発行駅名等)及び小児断線・アンダーラインなどを作成する。ここでは、架空の鉄道「下毛交通宇佐参宮線」の「宇佐八幡から橋津ゆき」B型青地紋・普通片道乗車券を作製してみることにした。地紋様と同様、印字部分についても、完成形に類似した実券をスキャナなどでパソコンに取り込んで「必要な箇所だけを Photoshop 等で修正する」といった方法も考えられるが、実際にスキャンした画像をプリンタで印刷してみると、シミや汚れが目立つうえに文字や線の"にじみ"が強調されて、全然本物っぽく見えない。面倒でも、"文字ツール"などを使って全く新規に作成したほうがよい結果が得られるので、今回はその方法を紹介する。

 

1) "ファイル"->"新規"から「幅:5.79cm / 高さ:2.52cm / 解像度:300pixels/inch / 画像モード:RGBカラー」の設定で、とりあえず"白"一色の画像を作成する。(切断時の誤差を考えて、サイズは「旅規」の規定よりほんの少し大きめにしておく。) 次に、(1)で作製した地紋様の画像を"ファイル"->"開く"から Photoshop に読み込み、"選択範囲"->"すべてを選択"して"編集"->"コピー"し、先の原型画像の上に"編集"->"ペースト"する。これで地紋様は自動的に"レイヤー化"されているはずなので、"移動ツール"を使って地紋の配置を調整する。

2) その上から"文字ツール"(右)を使って、表示事項を順次書き込んでゆく。文字の大きさや太さ、フォントなどは、実券を参考にして個別に設定する。文字(列)は新しく"文字ツール"を使用する度にレイヤー化されるので、"移動ツール"を使えば配置も意のままである。文字の幅も、変更したい文字(列)レイヤーを"アクティブ"にして、"編集"->"自由変形"ツールを選んだ後、表示される両端のアンカーを左右に"ドラッグ"すれば無制限に設定できる。

3) 今回は不要だったが、「から」「ゆき」「小」など、パソコンにインストールされている(既存の)フォントにはない特殊な形状の文字や記号を使用したい場合は、"ブラシツール"を使って一から自作する(右)。この際、最初からフリーハンドで作るのは大変なので、あらかじめ"実券"をスキャナなどでパソコンに取り込んだもの(同じ解像度:300 pixels/inch)をコピーして作業画像の上にペーストし、このレイヤーの"不透明度"を低く調節したうえで、"新規レイヤー"を作製して、「上からトレースするような感じで」ブラシを掛けていくとよい。(もちろん"実券"のレイヤーは、最終的には削除するか"非表示"状態にして出力する。) 同じ手法を使えば、"文字ツール"を使用するに当たって、実券の文字サイズ・フォントや配置を逐一確認しながら作業することもできるので、相当な手間さえ惜しまなければ、最終的には"真券"と区別できない文字組を作成することも夢ではない。但し、通常は文字レイヤーの一部分だけを修正することはできないので、例えば「通」の"しんにゅう"に旧字体の"点"を加えたい等、既存のフォント形を一部だけ修正したい場合は、"レイヤー"->"文字"->"レイヤーをラスタライズ"することにより、"ブラシツール"による加筆や"消しゴムツール"による一部消去も可能になる。また、各種の"影(袋)文字"も全く同様の方法で作成可能だが、実券と同じように必ずレイヤーを表示事項の下に配置し、最終的に出力する場合はレイヤーの"不透明度"を60%以下に設定しておかないと、影文字が"浮き上がってしまう"("影"にならない)ので要注意。

4) 小児断線やアンダーライン等は"新規レイヤー"を作成し、基本的には"ラインツール"で描画すればよい。もちろん、線の太さなどは自由に設定できるが、それだけではあまりに線がきれい過ぎて滋味がないので、"消しゴムツール"などを併用して部分的にほんの少しぼかしたり、わざと切れ目を入れたりして本物っぽく仕上げる。また、入場券の"朱帯"や昔の急行券の"赤条"等も、同様に"ラインツール"と"ブラシツール"などを使って作成できるが、今回は省略する。完成した画像(右)は、後日の修正のため、この状態("レイヤー付")のまま Photoshop("PSD")形式で保存しておいたほうがよい。また、"TicketMaker2"(下記)を使って印刷する場合は、"レイヤー"->"画像を統合"して"BMP"や"JPEG"形式の別ファイルを準備しておく。

(3) 表面を印刷する

 作成した券表面のイメージは、もちろん Photoshop を使ってそのまま印刷することも可能だが、ここでは筆者のオリジナルソフト"TicketMaker2"(右)を使用した。TicketMaker2 は同じイメージを一度に多数、簡単に印刷できるよう工夫したもので、操作法は、画像をドラッグ&ドロップした後、印刷数や隙間調整などの簡単な設定を行うだけでよく、切断しやすいように"枠線"を付けて出力することもできる。但し、"Windows専用"(Mac 不可)で、しかも"BMP"や"JPEG"形式しか扱えないため、"1枚だけ"作製するのであれば Photoshop から"PSD"形式のまま印刷するほうが画質もよい。印刷用紙は普通のコピー紙で十分と思われるが、紙質や微妙な紙色(精白度)によりかなり印刷結果(色調)は違って見える。また、全く同じ設定でもプリンタの機種によって全然違う色合いになることも多いので、たくさん刷る前に一度"試印刷"してみたほうがよい。

(4) 裏面を作成・印刷する

 券裏面の場合も、表面と同じように一から Photoshop を使って作成することは可能だが、"券番"を変える操作が煩雑なうえ、大量印刷にも向かないので、筆者はオリジナルソフト"TicketMaker"(右)を作成した。任意の券番と印刷枚数などを指定すれば、これ1つで券裏面イメージの作成と印刷が同時に行える。また、地色(券番)タイプの変更や微妙な色調・明度の調整も可能で、Ver1.35 からはオプションで「**駅発行」「下車前途無効」などのテキストや記号も加刷できるよう改良した。

(5) 貼り合わせ及び裁断

1) (3)で印刷が完了した券表面をまず厚紙に貼り付ける。厚紙はホームセンターなどで販売されている普通の"板目表紙"(厚さ0.59mm)等で十分だが、この両面にコピー紙を貼ると国鉄券(0.6〜0.7mm)より若干厚くなってしまうので、用紙にもこだわる方は、少し大きな専門店に行って大体"0.5 mm"厚程のボール紙を探すとよい。貼り合わせには"糊"を使うが、A型数枚程度の大きさならともかく、A4用紙一杯に印刷されたコピー紙をきれいに厚紙に貼り付けるのは結構熟練を要する。糊は市販の"液状のり"でもなんとかなるが、大面積では乾燥が早いため、先に上端だけを厚紙に固定した後、上から少しずつ塗り足しては、皺を伸ばしながらゆっくり貼り進めるとよい。(但し、糊は必ず厚紙のほうに塗ること。コピー紙の側に塗ると、紙がカールして貼り合わせが難しくなるだけでなく、湿気により紙が伸展して皺の原因になりやすい。また、"ダッチングマシン"でもお世話になった川崎祐二氏は、「"ヤマトのり"と木工用ボンドを練り合わせ、乾燥を遅らせるために少量の水で溶いたものをハケで塗布する」方法を推奨しておられる。) 貼り合わせが完了した厚紙は、放置して乾燥するとかなり反り上がるので、適宜"重し"を乗せるなどしておく。なお、券裏面の貼り付けについては、この段階で表裏を正確に合わせることが至難の業なので、面倒でも裁断後に1枚ずつ個別に行うほかないと思われる。

2) 次に、券表面が貼り付けられた状態の厚紙を、カッターと定規を使って硬券サイズに切断する。(多数を一度に作製する場合でも、"せん断式の大型ペーパーカッター"の類は、微妙な"切断ズレ"が避けられないので使えない。) カッターを当てる場合は刃先をできるだけ垂直に立て、また強い力で一気に切り落とそうとは考えずに、最初は軽く"切れ目"を入れるだけにして、少しずつ何度も"溝を深くしていく感じ"で切り進めるほうが失敗しにくい。

 

3) 最後に、(4)で印刷が完了した券裏面を硬券サイズに裁断して、2)の裏面に1枚ずつ貼り合わせる。やはり、糊は厚紙のほうに塗布し、券の角から慎重に位置決めをして、皺を伸ばしながら糊が乾かないよう短時間で貼り付ける。この際、必ず「券番が右を向いている」のを確認すること。(うっかりしやすい。) その後、完全に糊が乾くのを待ってから"検品"し、微妙なずれによる余剰部分があればカッターを当てて修正する。右は、完成した"0001"から"0030"まで30枚連番の模擬硬券。

4) 今回は必要なかったが、乙片の"綴じ穴"を再現しなければならないケースでは、筆者の場合、100円ショップなどでも売られている"穴開けポンチ"(径2mm)を利用する(右)。但し、市販品のままではちょっと貫通能力が足りないので、刃を紙ヤスリ等でさらに鋭く調整したほうがよい。操作法は簡単で、木製の台上に券を固定したら、ポンチをできるだけ垂直に立て、上から小型ハンマーで一気に槌打穿孔する。もちろん、卓上ボール盤などに比べれば、円形がやや"いびつ"になるのは仕方ないが、模擬券数枚を試作する程度ならこれで十分と思われる。
 余談だが、昔の古い乗車券類には乙片の"綴じ穴"がないものも多い。いつ頃から開けられるようになったのか、色々な文献を調べたものの、結局よくわからなかった。実際、国鉄券では印刷場により出現時期がまちまちで、早いところで昭和20年代の後半(?)、遅いところでも昭和35年頃までには機械処理(2.(3)参照)が始まった模様だが、少なくともはっきりとした規定や通達などに基づいたものではない可能性が高い。また、同時期の古い私鉄券などでは、駅員が手指で穿孔する箇所に"黒点"(黒墨)を打っているものをよく目にするが、機械穿孔に移行する過渡期の様式とも考えられる。

 

★ 上記の方法を使えば、硬乗(各種常備式・準常備式・補充式の片乗・往乗)や硬入はもちろん、かなり複雑な急行券・指定席券類や戦前の貴重品なども含めて、あらゆる乗車券類の模造品を作製することができる。自作した模擬硬券の使い道は人それぞれと思うが、筆者の場合は、貴重な乗車券類の代用品や研究用として、また架空の鉄道駅を想定し、たくさんの口座を自作して、中古の"硬券差"に収めてラベルを貼り、「昔日の地方私鉄の出札口再現」(右)に一役買っている。

※ ["乗車券箱"と"硬券差"について]

 各駅に送られた乗車券類(硬券)は仕分けの後、通常は出札口に置かれた「乗車券箱」と呼ばれる鍵付きの収納庫へ厳重に保管される。昔は木製のものもあったようだが、近年はシャッター式で上下に開閉するスチール製が主流になった。硬券は下のような金属製のホルダーに"裏向きに連番で"収納された後、背面の突起部分(矢印)を乗車券箱内のレールに引っ掛けて固定する構造になっている。「硬券差」とか「硬券ホルダー」と呼ばれているようだが、正式名称は不明。A・B・C・D型それぞれに専用品が必要(D型用はA券も一応使用可能)で、硬券の最盛期には"岩田製作所"(東京)など数社が製造していた模様だが、当然現在は作られていないため、中古品を扱う鉄道関連の店で手にいれるほかない。(但し、C型用は非常に少ない。) 筆者も北海道から九州まであちこちの店を当たって漸く数を集めたが、中には"重し"がなくなっているものもあり要注意。(下中央手前:たまたま持っていたテープカッターの金属製の"芯"と1mm厚のアルミ板で自作したもの。下中央奥:純正品も錆び付いているものが多く、DIY用のリューターや紙ヤスリなどできれいに研磨しておかないと折角の硬券に錆汚れが付いてしまう。)
 なお、九州管内の国鉄(JR)駅では、なぜか昔から上記のような乗車券箱/硬券差が使われておらず、単に細かく仕切りを入れただけの"小物入れ"様の木製収納庫(鍵もなし?)が主体だった。売り上げ確認時に券番のチェックがしにくいという欠点はあるだろうが、面倒な装着操作が不要で、券の取り出しも特に不便という感じではなかった。硬券関係のこれらの設備は、現在ではほとんどすべての駅で撤去されてしまったと思われるが、小駅を訪れて"出札口を覗き込む"ときの、あのワクワク感が味わえなくなったことは本当に残念でならない.....。


◆ 参考文献:「国鉄きっぷ全ガイド」(近藤喜代太郎・日本交通公社・1987)/「キップの世界 ―収集趣味と乗車券印刷機―」(天理大学附属天理参考館・2007) など